日本に長期定住する外国人の「永住者」資格を巡り、2027年4月から在留資格取消し制度が大きく変わる。
2024年に成立した改正入管法により、永住者について新たに、①入管法上の義務違反、②故意に税金や社会保険料などの公租公課を支払わないこと、③窃盗・詐欺・恐喝・殺人・危険運転致死傷など一定の刑罰法令違反で拘禁刑に処せられたこと、が在留資格取消しの対象となり得る。
出入国在留管理庁は2026年8月4日、この制度の具体的な運用を示す「永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン案」を公表し、9月4日までパブリックコメントを実施している。
政府は2027年4月の施行に向け、取消事由の判断基準、自治体などから入管庁への通報、永住資格を取り消す場合に別の在留資格へ変更する仕組みなどを具体化する。
SNSでは「税金を払わない外国人の永住資格を取り消せるようになる」「高市政権が有言実行」と評価する声がある一方、「逮捕された時点で強制送還すべきだ」といった、さらに厳格な対応を求める意見も見られる。
ただし、制度については二つの重要な注意点がある。
第一に、永住資格取消し制度の法的根拠は高市内閣が新たに成立させたものではない。改正法は2024年の岸田政権下で成立している。現在の政府が、2027年4月施行に向けてガイドライン策定や在留管理の厳格化を進めているというのが正確だ。
第二に、逮捕されただけで永住資格が自動的に取り消されたり、直ちに国外退去となったりする制度ではない。刑事事件について新たな取消事由となるのは、法律で定める一定の犯罪について「拘禁刑に処せられた」場合であり、単なる逮捕段階とは区別される。
新人記者ナルカ


2027年4月から何が変わるのか
永住者は、他の多くの在留資格と異なり、在留期間の更新を必要としない。
そのため、永住許可を取得した後に納税・社会保険料の支払いを怠ったり、重大な犯罪を起こしたりした場合でも、在留期間更新時の審査によって資格を見直す機会がないという問題が指摘されていた。
2024年の改正入管法では、この問題に対応するため、永住者について新たな取消事由を追加した。
| 新たな取消事由 | 概要 |
|---|---|
| 故意の公租公課不払い | 税金、公的年金、公的医療保険料などについて、支払義務を認識しながら、あえて支払わない場合 |
| 入管法上の義務違反 | 在留カード、住居地届出など入管法で定める義務・禁止規定に違反した場合 |
| 特定の刑罰法令違反 | 窃盗、詐欺、恐喝、殺人、危険運転致死傷など一定の犯罪で拘禁刑に処せられた場合 |
「税金を滞納したら即取消し」ではない
制度を巡って最も注目されているのが、税金・社会保険料の不払いである。
ガイドライン案では、「公租公課」について、租税だけでなく公的な負担金全般を含むと整理している。
代表例は、
- 所得税
- 住民税
- 法人税
- 公的年金保険料
- 公的医療保険料
などである。
しかし、単に未納が発生しただけで取消事由に該当するわけではない。
入管庁は「故意」について、支払義務があることを認識しているにもかかわらず、あえて支払いをしない場合を想定している。
病気・失業など「払えない事情」は区別
永住者でも、病気、失業、事業不振、家族の事情などによって一時的に税金や社会保険料を支払えなくなることはあり得る。
入管庁のQ&Aでは、病気や失業などによりやむを得ず支払えない場合について、直ちに「故意に公租公課の支払をしないこと」に該当するものではないと説明している。
ガイドライン案では、
- 滞納額
- 滞納期間
- 支払わなかった経緯
- 支払能力
- 督促後の対応
- その後に納付したか
- 生活状況
などを総合的に確認する方向が示されている。
制度が狙うのは、生活困窮者を機械的に国外へ出すことではなく、支払能力があるにもかかわらず意図的・継続的に公的義務を回避する悪質なケースへの対応である。
税金だけではなく年金・健康保険料も対象
ここで重要なのは、対象が「税金」だけではないことだ。
入管庁が示す「公租公課」には、公的年金や公的医療保険の保険料も含まれる。
永住者は日本で長期間生活することが前提であり、日本人と同様に税・社会保険制度を支える義務がある。
真面目に納税・保険料納付を続けている外国人との公平性という観点からも、意図的な未払いを放置しないことには一定の合理性がある。
重大犯罪でも取消し対象に
もう一つ大きな変更が、一定の犯罪で拘禁刑に処せられた永住者への対応である。
入管庁は対象となる犯罪の例として、刑法上の、
- 窃盗
- 詐欺
- 恐喝
- 殺人
などを挙げている。
さらに、自動車運転死傷処罰法の危険運転致死傷なども対象となる。
ただし、「犯罪で逮捕された」というだけではこの取消事由には該当しない。
法律上は「特定の刑罰法令違反により拘禁刑に処せられたこと」が要件となる。
「逮捕=即強制送還」にしない理由
SNSでは外国人犯罪報道のたびに、「逮捕した時点で強制送還すればいい」という意見が見られる。
しかし、日本の刑事司法では、逮捕は有罪判決ではない。
逮捕後に嫌疑不十分などで不起訴となる場合もあれば、起訴後に無罪判決となる可能性も制度上存在する。
逮捕されたという事実だけを理由に永住資格を剥奪し国外退去させる仕組みにすると、後に犯罪が成立しなかった場合に重大な権利侵害となる。
そのため、新制度も「逮捕」ではなく、一定犯罪で拘禁刑に処せられたことを取消事由としている。
不起訴=無実と決まったわけでもない
一方、不起訴処分についても正確な理解が必要だ。
不起訴には、嫌疑なし、嫌疑不十分だけでなく、犯罪事実を認定できる場合でも事情を考慮して起訴しない「起訴猶予」がある。
したがって、「不起訴だから事件自体がなかった」「不起訴だから必ず無実」と単純化することもできない。
刑事処分と在留管理は別の制度であり、外国人について刑事事件で不起訴となった場合でも、入管法上の別の退去強制事由や在留資格違反が確認されれば、在留管理上の措置が検討されることはあり得る。
外国人だけ不起訴が多いのか
外国人犯罪報道を巡っては、「外国人ばかり不起訴になっている」という主張もSNSで繰り返されている。
しかし、法務省の犯罪白書では、来日外国人の起訴率が日本人を含む全体と極端に異なるという結果にはなっていない。
令和6年版犯罪白書によると、2023年の来日外国人被疑事件では、日本人を含む全終局処理人員と比較した起訴率は、刑法犯で4.2ポイント高かった。
特別法犯では3.5ポイント低かったものの、入管法違反を除くと差は0.1ポイント低い程度だった。
罪種や事件内容によって起訴率は異なるため、単純比較には注意が必要だが、「外国人だけ一律に不起訴にされている」という説明を犯罪白書の数字が裏付けているとは言いにくい。
永住者はすでに犯罪で退去強制される場合がある
新制度が始まるまで永住者が犯罪をしても日本に居続けられる、という理解も正しくない。
現行制度でも、永住者であっても一定の刑罰を受けた場合や薬物事犯で有罪となった場合などには退去強制の対象となり得る。
また、不正な手段で永住許可を取得した場合や、住居地に関する一定の義務違反などについても在留資格取消制度が存在する。
2027年4月の改正は、これに「故意の公租公課不払い」「入管法上の義務違反」「一定犯罪で拘禁刑」という新たな枠組みを加えるものだ。
取消しだけでなく「別の在留資格への変更」もある
今回の制度で非常に重要なのが、取消事由に該当したら全員を即時国外退去させる仕組みではない点だ。
改正入管法では、永住者の在留資格を取り消そうとする場合でも、「引き続き日本に在留することが適当でない」と認める場合を除き、法務大臣が職権で別の在留資格への変更を許可する仕組みを設けている。
入管庁はパブリックコメントへの回答でも、取消事由に該当する場合に直ちに出国させるのではなく、原則として「定住者」など別の在留資格への変更を許可する考えを示している。
つまり、制度は大きく、
- 永住者に取消事由があるか確認
- 本人の事情や家族関係、在日期間などを調査
- 日本への在留継続を認めるべきか判断
- 認める場合は別の在留資格へ職権変更
- 在留継続が適当でない悪質ケースでは取消し・退去方向へ
という流れになる。
なぜ原則「職権変更」なのか
永住者の中には、日本で数十年生活し、日本人配偶者や日本で育った子どもを持つ人もいる。
一度の違反だけで家族生活や生活基盤をすべて失わせることは、処分として過重になる場合がある。
2024年の法改正時には国会の附帯決議で、具体例を示すガイドラインを作成し、特に慎重な運用を行うことが求められた。
そのため、入管庁は違反内容だけでなく、本人の在日期間、家族状況、生活状況などを踏まえて処分を判断する方向を示している。
自治体・国の職員から入管庁への通報制度
改正法では、国や地方公共団体の職員が職務上、永住者が取消事由に該当すると考えられる事情を知った場合に、入管庁へ通報できる規定も整備された。
例えば自治体が税・社会保険料の徴収業務を行う中で、長期にわたり意図的な未払いを続けている永住者を確認した場合などが想定される。
ただし、通報された時点で資格取消しが確定するわけではない。
入管庁が事実関係を調査し、本人から事情を聴き、取消事由に該当するかを判断する。
2026年8月4日にガイドライン案公表
出入国在留管理庁は2026年8月4日、「永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン案」を公表した。
現在は確定版ではなく、9月4日午前0時までパブリックコメントを受け付けている。
ガイドライン案では、
- どのような行為が入管法上の義務違反になるのか
- 「故意に公租公課を支払わない」とは何か
- どの犯罪が対象になるのか
- 国・自治体職員がどのような場合に通報するのか
- 職権変更と資格取消しをどう判断するのか
などを具体的に示している。
制度創設は岸田政権、現在は高市政権下で施行準備
SNSでは今回の制度を「高市政権が実現した外国人政策」と評価する投稿も見られる。
しかし、歴史的経緯は正確に分ける必要がある。
永住者への新たな取消事由を盛り込んだ改正入管法は、2024年の岸田政権下で国会審議され、成立した。
当時、岸田文雄首相自身も衆議院法務委員会で、永住外国人の在留資格取消事由や、公租公課不払いを取消事由に追加する改正について答弁している。
一方、現在の高市政権は外国人政策の適正化を政策課題として進め、2027年4月の施行に向けたガイドライン策定、情報連携、永住許可審査の厳格化などを進めている。
したがって、
「制度の法的根拠は2024年改正、高市政権下で具体的な運用と施行準備が進んでいる」
と説明するのが最も正確である。
永住「許可」であり無条件の権利ではない
日本の法制度上、一般に「永住権」と呼ばれるものの正式な在留資格名は「永住者」であり、制度は「永住許可」である。
永住者は活動制限がなく、在留期間更新も不要という非常に安定した地位を持つ。
その一方、外国籍のままである以上、日本の法令、税、社会保険、入管法上の義務に従う必要がある。
永住許可を得た後は何をしても資格が維持される、という制度ではない。
制度厳格化を支持する視点
新制度を支持する立場からは、永住許可という安定した地位を与えられた以上、日本社会の基本的な義務を守るのは当然だという考えがある。
特に、真面目に税金や社会保険料を支払っている日本人や外国人から見れば、支払能力があるにもかかわらず故意に未払いを続ける者が同じ永住資格を維持し続けることには不公平感が生まれる。
重大犯罪についても、永住許可を受けた後に継続的・悪質な法令違反をした場合には、日本への永住を認め続ける必要があるのかを見直すのは合理的だという意見がある。
制度に慎重な視点
一方、永住者支援団体や法律家からは、長年日本に生活基盤を築いてきた人の法的地位が不安定になるとの懸念も示されている。
特に、
- どの程度の義務違反で取消し検討に入るのか
- 滞納額はいくらから問題になるのか
- 何回の在留カード不携帯などで対象になるのか
- 自治体による通報にばらつきが出ないか
- 入管庁の裁量が大きすぎないか
など、運用の透明性を求める声がある。
入管庁も、単発の軽微な義務違反だけで直ちに取消しを行う制度ではないとし、個別事情を総合判断する方向を示している。
JP News Focusが注目するのは「悪質ケースを確実に処理できるか」
制度の評価は、取消し件数が多いか少ないかだけで判断すべきではない。
重要なのは、
- 支払能力がありながら税・社会保険を意図的に長期未納する
- 入管法上の義務を繰り返し無視する
- 重大犯罪で拘禁刑を受ける
- 制度を悪用しながら永住資格だけを維持し続ける
といった悪質なケースを確実に見極め、適正な手続で処分できるかである。
同時に、病気や失業など正当な事情のある人や、一度の軽微なミスまで機械的に資格取消しとしない透明な運用も必要になる。
永住許可の「入口」と「取得後」の両方が厳格化
現在、政府は取消し制度だけでなく、新たに永住許可を申請する外国人への審査基準も見直している。
2026年8月4日には、永住許可に関するガイドライン改定案と、今回の永住者取消ガイドライン案が同時にパブリックコメントへ出された。
つまり今後の永住制度は、
- 永住許可を取得する段階で審査を厳しくする
- 取得した後も税・社会保険・法令遵守を確認する
- 悪質な義務違反には資格変更・取消しで対応する
という「入口と取得後」の二段階管理へ移行しつつある。
クロ助とナルカの視点
























編集部まとめ
- 施行:永住者に関する新たな在留資格取消事由は2027年4月から運用開始予定。
- 法的根拠:2024年の改正入管法。制度そのものは岸田政権下で成立。
- 公租公課:税金、公的年金、公的医療保険料などを含む。
- 未払い:単なる滞納ではなく「故意に支払わない」悪質ケースが対象。
- 生活困窮:病気・失業などやむを得ない事情は個別に考慮。
- 犯罪:窃盗、詐欺、恐喝、殺人、危険運転致死傷など一定犯罪で拘禁刑に処せられた場合が対象。
- 逮捕:逮捕時点で自動的に永住取消し・強制送還となる制度ではない。
- 在留資格変更:取消事由に該当しても、原則として定住者など別資格への職権変更を検討。
- ガイドライン:入管庁が2026年8月4日に案を公表し、9月4日までパブリックコメント中。
- 不起訴:犯罪白書では来日外国人の起訴率が日本人を含む全体と極端に異なるとは確認できない。
- 今後:悪質ケースを確実に処分しつつ、軽微な違反や生活困窮者を機械的に取消さない透明な運用が焦点。
出典
- 出入国在留管理庁「永住許可制度の適正化Q&A」
- e-Gov「永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン案に係る意見募集について」2026年8月4日
- 出入国在留管理庁「永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン(案)」
- 出入国在留管理庁「永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン(案)(概要)」
- 参議院「第213回国会 入管法等改正法案」2024年
- 衆議院「第213回国会 法務委員会 第19号」2024年5月15日
- 法務省「令和6年版 犯罪白書 外国人の検察」
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