「イスラム教徒の墓が足りない。日本人も考えて」――。元TBSアナウンサーの国山ハセン氏が、イスラム教徒である父親の死をきっかけに、日本国内のムスリム向け土葬墓地不足を取り上げた過去のTBS特集が、2026年8月にSNS上で再び注目を集めている。
ただし、今回SNSで拡散されている映像・記事は新しい報道ではない。元になったTBS NEWS DIGの記事は2022年12月21日公開で、当時TBSのキャスターだった国山氏が、イラク出身でイスラム教徒だった父親の死を通じて、土葬墓地の不足を取材したものだ。
SNSでは、「最初から土葬できる国に住めばよかった」「個人の事情を日本人全体の問題にすり替えるべきではない」「日本の文化に外国人側が合わせるべきだ」「土葬は地下水への影響も心配」といった反応が相次いでいる。
一方、日本の法律は土葬そのものを全国一律で禁止しているわけではない。墓地、埋葬等に関する法律は「埋葬」と「火葬」の両方を制度上認めており、市町村長の許可を受け、許可された墓地で行うのであれば土葬は可能だ。ただし、自治体条例、墓地経営許可、土地条件、周辺住民との調整などにより、実際に土葬できる場所は非常に限られている。
重要なのは、「宗教上の希望があるから認めるべき」「日本は火葬文化だから一切認めるべきでない」という二択ではない。宗教の自由、日本の地域慣行、公衆衛生、土地利用、地下水保全、住民合意をどこまで両立できるかが本質的な論点となる。
新人記者ナルカ


話題の映像は2022年のTBS特集
2026年8月にSNSで再拡散している投稿では、「TBSアナウンサーで父親がムスリムの国山ハセンさん」と紹介されている。
しかし、元になったTBS NEWS DIGの記事は2022年12月21日に公開されたものだ。
当時の記事では、「日本生まれ日本育ちの国山ハセンキャスター、父はイラク出身でイスラム教徒」と紹介されている。
国山氏は2022年末にTBSを退社しており、2026年現在は元TBSアナウンサーとして活動している。
したがって、「現在TBSアナウンサーが発言した」という受け取り方は正確ではない。
父親の死をきっかけに土葬墓地問題を取材
TBSの特集では、国山氏がイスラム教徒である父親の死をきっかけに、日本国内でイスラム教徒が土葬できる墓地が不足している問題を取り上げた。
イスラム教では一般に火葬を避け、遺体を土葬する慣習がある。このため、日本で生活するイスラム教徒が亡くなった場合、土葬可能な墓地を探す必要がある。
しかし、日本では火葬が圧倒的多数を占めており、土葬を受け入れる墓地は限られている。
国山氏の父親も、国内で埋葬先を確保することが容易ではなかったという個人的経験から、この問題を取材した。
「日本人も考えて」はどこまで本人の発言なのか
SNS投稿では「イスラム教徒の墓が足りない。日本人も考えて」と要約されている。
一方、TBS NEWS DIGで確認できる記事タイトルは「父の死をきっかけに…『イスラム教徒の墓が足りない』 日本の“土葬”墓地の課題を考える」であり、「日本人も考えて」という表現がそのまま記事タイトルとして使われているわけではない。
そのため、SNSで拡散される短い文言と、元番組・記事の表現は分けて扱う必要がある。
日本では土葬は法律上禁止されていない
厚生労働省が所管する「墓地、埋葬等に関する法律」では、「埋葬」と「火葬」の双方が規定されている。
同法第4条は、埋葬または焼骨の埋蔵を墓地以外で行ってはならないと定め、第5条は、埋葬、火葬または改葬を行う者に市町村長の許可を求めている。
つまり、日本では土葬そのものが法律で全面禁止されているわけではない。
日本で土葬を行う基本条件
・市町村長から埋葬許可を受ける
・墓地として許可された区域に埋葬する
・自治体条例や墓地側の規則を満たす
・必要に応じて衛生・環境・土地利用上の条件を満たす
一方、墓地の経営許可や設置基準は自治体の条例にも左右されるため、「法律上可能」と「どこでも土葬できる」はまったく別の話である。
日本では火葬が社会の標準
政府統計の衛生行政報告例では、毎年度、埋葬と火葬の件数が集計されている。
現在の日本では火葬が圧倒的多数で、土葬はごく限られた地域・墓地で行われる例外的な葬送方法となっている。
これは単なる宗教上の習慣だけでなく、人口密度、墓地用地の不足、公衆衛生、土地利用、都市化など長い社会的変化の中で定着したものだ。
そのため、SNSで「日本社会では火葬が標準であり、外国人も日本の制度や地域事情へ適応すべきだ」とする意見が出る背景には、現実の土地利用問題がある。
「郷に入っては郷に従え」は差別なのか
外国人や宗教的少数者に、日本の法律や生活ルールへの順守を求めること自体は差別ではない。
例えば、墓地の設置条件、公衆衛生基準、地下水保全、土地利用規制などは、宗教や国籍を問わず適用されるべきルールである。
一方、「外国人だから宗教的希望を一切認めない」「イスラム教徒だから危険」といった扱いは、個人の具体的行為や土地条件ではなく属性だけを理由に排除することになり得る。
制度として重要なのは、宗教上の希望を自動的に優先することでも、国籍・宗教だけで拒否することでもなく、日本の法令、公衆衛生、土地条件、地域合意という同じ基準で判断することである。
土葬で地下水汚染は起きるのか
SNSで特に多い懸念が「土葬による地下水汚染」である。
この点について、「土葬すれば必ず地下水が汚染される」と断定するのは科学的に正確ではない。一方、「土葬には地下水へのリスクがまったくない」と言い切るのも適切ではない。
英国環境庁の2026年版ガイダンスでは、人の埋葬による地下水汚染の可能性を明確に認めている。
特に問題となる条件として、短期間に大量の埋葬を行う場合、長期間にわたる多数の埋葬、地下水が汚染されやすい土地、飲料水に利用される地下水の近く、地下水位が浅い場所などを挙げている。
英国では井戸から250m、地下水面から1m以上を推奨
英国環境庁は、地下水保護の最低基準として、墓地を次の場所から離すよう求めている。
- 飲料水用の井戸・湧水・ボーリング孔から250メートル
- 河川・湧水から30メートル
- 排水路から10メートル
- 地下水による浸水が起きる土地を避ける
- 墓穴の底を年間最高地下水位より最低1メートル上にする
この基準は英国の制度であり、日本にそのまま適用されるものではない。しかし、先進国の環境当局が「埋葬場所と地下水の位置関係」を実際に規制対象としていることは、地下水への懸念が単なる感情論ではないことを示している。
地震大国だから土葬は危険なのか
SNSでは「日本は地震大国なので土葬に向かない」という意見もある。
しかし、「地震が多い国では土葬が不可能」とする一般的な科学基準は確認できない。
墓地の環境リスクで直接重要なのは、地下水位、地質、斜面、洪水、排水、井戸や水源との距離、埋葬密度などである。
もちろん、豪雨、地滑り、液状化などの災害リスクが高い土地に墓地を設ける場合、個別の地質評価は必要となる。
したがって、「地震大国だから全面禁止」という説明より、「日本の地形・地下水・災害条件に適合する場所だけ許可する」という制度の方が合理的である。
住民が反対することは認められるのか
墓地の新設は、周辺住民にとって長期的な土地利用問題である。
一度墓地として利用されれば、何十年にもわたり地域の土地利用が固定される可能性がある。
そのため、周辺住民が地下水、交通、景観、土地価格、災害リスクなどについて説明を求めること自体は正当な地域行政への参加である。
宗教施設や墓地に限らず、廃棄物施設、工場、火葬場、物流施設などでも同様に周辺影響について議論が行われる。
「反対=差別」と単純化せず、反対理由が客観的な土地・衛生条件に基づいているかを確認する必要がある。
「特殊事情」の範囲をどこまで広げるのか
SNSでは、「特殊な宗教事情を理由に日本社会側が制度を変え続ければ、例外が際限なく広がる」との懸念も見られる。
この論点は、外国人受け入れ政策全体にも共通する。
日本へ移住・定住する人が増えれば、食事、教育、服装、礼拝、墓地、祝日など、宗教・文化上の異なる要望が増える。
すべてを受け入れることも、すべて拒否することも現実的ではない。
公共施設や法律を変更する場合は、「社会全体の負担」「安全性」「他の住民への影響」「代替手段の有無」「費用負担者」を明確にする必要がある。
費用は誰が負担するべきか
土葬墓地を新たに整備する場合、土地取得、地質調査、地下水調査、造成、維持管理、道路整備などに費用がかかる。
宗教上の需要に対応する施設を税金で整備するのか、利用者団体が負担するのか、民間事業者が運営するのかは重要な政策論点である。
宗教的配慮を認める場合でも、その費用を自動的に地域住民全体へ転嫁する必要はない。
受益者負担を基本とし、安全基準や行政監督について公費を使うという分担も考えられる。
「土葬できる国へ帰る」という選択肢
SNSでは、「土葬を望むなら母国へ遺体を搬送すればよい」とする意見もある。
実際、海外へ遺体を搬送して埋葬することは一つの選択肢である。
しかし、日本国籍を持つイスラム教徒、日本で生まれ育った人、永住者、日本人配偶者を持つ人なども存在するため、「外国人だから母国へ帰ればよい」だけではすべてのケースを説明できない。
国山氏自身も日本生まれ日本育ちであり、父親がイラク出身だったという事情がある。
日本社会の一員として長期間生活する人の葬送をどこまで認めるのかは、今後の外国人定住政策と合わせて議論する必要がある。
日本の文化への適応を求める視点
日本では火葬が社会的に定着し、墓地制度、都市計画、土地利用もそれを前提に形成されている。
日本へ移住・定住するのであれば、宗教上の理由だけで日本側へ制度変更を求めるのではなく、既存の文化や地域事情へ可能な限り適応するべきだという考え方である。
特に土地不足や地下水への懸念がある地域では、住民の安全と生活環境を宗教上の要望より優先すべきとの意見には一定の合理性がある。
宗教の自由を重視する視点
一方、日本の法律が土葬を全面禁止していない以上、安全基準を満たす場所まで宗教を理由に一律排除する必要はないという考え方もある。
土地、水源、衛生、周辺環境への影響が科学的に問題ないと確認され、費用も利用者側が負担するのであれば、限定的に土葬墓地を認めても地域社会への負担は抑えられる可能性がある。
日本独自の厳格基準を作る視点
最も現実的なのは、賛成・反対を宗教論だけで決めず、土葬墓地に全国共通の環境基準を設ける方法である。
- 飲料水源・井戸から十分な距離を確保
- 最高地下水位と墓穴底部の距離を規定
- 洪水・土砂災害リスクの高い場所を除外
- 年間埋葬数と面積当たり埋葬密度を制限
- 地質・地下水調査を義務化
- 定期的な地下水モニタリングを実施
- 設置者・利用者による費用負担を明確化
- 周辺住民への事前説明と意見聴取を義務化
これなら、「宗教だから特例」「外国人だから禁止」という議論ではなく、日本の安全基準を満たせるかどうかで判断できる。
クロ助とナルカの視点


















編集部まとめ
- 元情報:今回SNSで再拡散している国山ハセン氏の土葬墓地特集は、2022年12月のTBS NEWS DIG報道。
- 現在:国山氏は2022年末にTBSを退社しており、2026年現在は元TBSアナウンサー。
- 法律:日本では土葬は全国一律で禁止されておらず、墓地埋葬法は埋葬と火葬の双方を規定している。
- 現実:実際の土葬には市町村長の許可、許可された墓地、自治体条例などの条件が必要で、場所は非常に限定される。
- 地下水:土葬による地下水への影響は立地条件によって異なる。英国環境庁は飲料水井戸から250m、河川等から30m、墓穴底を最高地下水位より1m以上上にするなどの基準を設けている。
- 地震:「地震大国だから土葬できない」とする一般的な科学基準は確認できない。地下水、地質、洪水、斜面など個別条件の評価が重要。
- 地域合意:住民が水質、土地利用、災害リスクについて説明を求めること自体は正当であり、反対意見すべてを差別と扱うべきではない。
- 宗教配慮:一方、宗教・国籍だけを理由に、安全基準を満たす計画まで一律排除することも適切ではない。
- 制度案:土葬を認めるなら、日本独自の地下水・地質・災害・埋葬密度・住民説明・費用負担の全国基準を先に整備するべき。
出典
- X投稿「国山ハセン氏の土葬墓地特集を巡る反応」2026年8月
- TBS NEWS DIG「【国山ハセン取材】父の死をきっかけに…『イスラム教徒の墓が足りない』 日本の“土葬”墓地の課題を考える」2022年12月21日
- 厚生労働省「墓地、埋葬等に関する法律」
- 厚生労働省「墓地、埋葬等に関する法律の概要」
- e-Stat「衛生行政報告例 埋葬及び火葬の死体・死胎数並びに改葬数」
- UK Environment Agency「Protecting groundwater from human burials」2026年4月更新













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