ベトナム政府が、契約終了後も海外に違法に残る自国民労働者を対象とする行政罰を盛り込んだ政令「283/2026/NĐ-CP」を、2026年9月10日に施行した。政令第53条では、労働契約または職業訓練契約の終了後、脅迫や強制によらず自ら海外に違法残留した労働者に、8000万~1億ベトナムドンの罰金を科すと規定している。日本円では為替相場により変動するが、おおむね約48万~61万円に相当する。
SNSでは「ベトナムが不法滞在者への罰金を新設した」「日本にいるベトナム人の不法残留者全員が対象になる」といった説明も拡散している。しかし、条文上の対象は「契約に基づき海外で働くベトナム人労働者」で、契約終了後に本人の意思で違法に残ったケースである。さらに、罰金水準そのものは旧政令から維持されたとの現地報道もあり、「今回初めて最大1億ドンになった」と単純化するのは正確ではない。
新人記者ナルカ


政令283号の概要
- 政令名:283/2026/NĐ-CP
- 公布日:2026年7月15日
- 施行日:2026年9月10日
- 対象分野:労働、社会保険、契約に基づくベトナム人労働者の海外就労
- 不法残留に関する罰金:8000万~1億ベトナムドン
- 対象行為:労働契約または職業訓練契約終了後、脅迫・強制によらず自ら海外に違法残留する行為
- その他:無資格での募集・広告・相談、違法残留への勧誘や欺罔など、仲介側の違反にも罰則を規定
ベトナム政府の公式掲載文によると、同政令は労働者本人だけでなく、使用者、送り出し機関、仲介に関わる組織や個人なども対象にしている。海外就労分野の行政違反については、処分の時効が2年とされている。
時系列で見る経緯
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2026年7月15日 | ベトナム政府が政令283/2026/NĐ-CPを公布。 |
| 2026年8月 | 日本では、施行前に帰国手続きを進めようとするベトナム人が入管窓口に相次いで出頭していると報じられる。 |
| 2026年9月10日 | 政令283号が施行。旧政令12/2022/NĐ-CPは失効。 |
| 施行後 | 個別案件が第53条の要件に該当するかは、契約の有無、終了時期、残留の経緯、脅迫・強制の有無などに基づいて判断される。 |
「最大約60万円」の対象を条文から確認
対象は契約終了後の自発的な違法残留
政令第53条第2項は、労働契約または職業訓練契約が終了した後、本人が自ら海外に違法に残った場合を規定している。したがって、観光目的で渡航した人や、契約と無関係なすべての不法残留者に自動的に同条が適用されると読むことはできない。
また、条文には「脅迫、強制によるものではないこと」と「刑事責任を問われる場合ではないこと」という条件がある。人身取引や悪質な仲介によって帰国できなかった人まで、本人の責任として一律に処分する趣旨ではない点が重要である。
日本の入管法上の処分とは別
今回の政令はベトナムの行政罰であり、日本の出入国管理及び難民認定法に基づく退去強制、出国命令、上陸拒否期間などとは別の制度である。日本で不法残留となった場合、日本側の手続きが消えるわけではなく、帰国後またはベトナム当局の権限が及ぶ場面で、ベトナム側の行政処分が問題となり得る。
罰金額は「新設」ではなく維持との指摘
現地日本語メディアのVIETJOは、不法残留に対する8000万~1億ドンの罰金額は維持されたと報じている。政令283号は旧政令を置き換え、労働・社会保険・海外就労分野の規定全体を更新したものだが、最大1億ドンという数字だけを見て「新たに10倍へ引き上げた」と断定する際には注意が必要だ。
SNSで評価が分かれる理由
SNSでは、送り出し国が自国民の違法残留に責任を持つ姿勢を評価する声がある。日本側だけが退去手続きや摘発の負担を負うのではなく、母国側も再発防止に関与すべきだという考え方だ。罰金が契約違反や失踪の抑止につながれば、適法に働く多くのベトナム人労働者への偏見を減らす効果も期待できる。
一方、罰金を重くするだけでは、借金を抱えて来日した労働者をさらに追い込む可能性があるとの懸念もある。高額な送り出し費用、雇用先での不当な扱い、転職の難しさ、相談窓口へのアクセス不足などが失踪の背景にある場合、本人処罰だけでは原因を解消できない。
受け入れ企業と支援機関に求められる対応
- 契約満了日と在留期限を別々に確認する
- 退職・転職・帰国の選択肢を本人が理解できる言語で説明する
- 旅券や在留カードを事業者側で預からない
- 賃金未払い、暴力、脅迫などがあれば公的相談窓口につなぐ
- 失踪が起きた場合は隠さず、入管・監理団体・登録支援機関など必要な機関へ連絡する
制度の実効性は、罰金件数だけで測るべきではない。失踪や不法残留が減ったか、適法な転籍・帰国が増えたか、悪質な仲介業者の摘発が進んだかを継続的に検証する必要がある。
賛成・反対・中立の視点
施行を評価する視点
海外就労は送り出し国と受け入れ国の双方に責任がある。契約終了後の違法残留を明確な行政違反とし、本人だけでなく違法な勧誘・仲介にも罰則を置くことは、制度の信頼確保につながる。
慎重運用を求める視点
高額な罰金は、脆弱な立場の労働者を地下化させるおそれがある。脅迫や強制の例外を実際の運用でも機能させ、被害申告をした人が一方的に処分されない仕組みが欠かせない。
中立的な視点
抑止効果の有無は施行後のデータで判断すべきである。日本側も、違反者への厳正な対応と同時に、在留期限の周知、適法な転職支援、悪質事業者への監督を進める必要がある。
クロ助とナルカの視点












編集部まとめ
- 制度の要点:ベトナムの政令283号が2026年9月10日に施行され、契約終了後に自ら海外へ違法残留した対象労働者には8000万~1億ドンの罰金が規定された。
- 誤解しやすい点:日本にいるベトナム人不法残留者全員へ自動適用される制度ではなく、最大1億ドンの罰金額も新設ではなく維持との報道がある。
- 日本との関係:ベトナム側の行政罰と日本の入管法上の処分は別に扱われる。
- 今後の焦点:本人処罰だけでなく、悪質な送り出し・仲介の摘発、受け入れ企業の適正化、被害労働者の保護を同時に進められるかが問われる。
出典
- ベトナム政府「政令283/2026/NĐ-CP」概要・全文案内
- LuatVietnam「政令283/2026/NĐ-CP」第53条
- テレビ朝日「ベトナムが海外不法滞在の罰則強化へ 施行前に日本の入管に出頭者増える」2026年8月21日
- VIETJO「外国人・ベトナム人の労働違反処分を規定、不法残留の罰金額は維持」
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