南海トラフ巨大地震や富士山噴火などへの備えが求められる静岡県で、外国人住民・観光客に災害情報を伝える取り組みが進んでいる。富士宮市は市内44か所の全指定避難所に、日本語と4言語を併記した「災害時多言語表示シート」を配備した。
富士市の宿泊施設では、全33室にヘルメットと懐中電灯を置き、チェックイン時に避難方法を説明している。言葉の壁を行政だけの問題にせず、自治体、雇用主、学校、宿泊事業者、外国人本人が平時から役割を持つことが重要だ。
新人記者ナルカ


富士宮市、44避難所に多言語表示シート
静岡放送の報道によると、富士宮市は市内44か所すべての指定避難所に災害時多言語表示シートを備えた。表記言語は日本語に加え、英語、ポルトガル語、スペイン語、ベトナム語の4言語である。
避難所では受付、居住スペース、給水、トイレ、立入禁止、配給時間、生活ルールなど、多くの情報を短時間で共有しなければならない。翻訳できる職員や通訳がすぐ到着するとは限らず、紙の定型シートは初動を支える。
なぜ4言語なのか
対応言語は、地域で暮らす外国人住民の構成や、行政窓口での需要を踏まえて選ぶのが一般的だ。ただし、4言語ですべての人をカバーできるわけではない。やさしい日本語、ピクトグラム、翻訳アプリ、指さしボードなどを組み合わせる必要がある。
| 手段 | 強み | 限界 |
|---|---|---|
| 多言語表示シート | 停電・通信障害でも使え、定型情報を早く掲示できる | 対応言語と文例が限定される |
| やさしい日本語 | 幅広い人に伝わり、職員も使いやすい | 日本語を全く理解しない人には届きにくい |
| ピクトグラム | 言語に依存せず場所や禁止事項を示せる | 複雑な説明には不向き |
| 翻訳アプリ | 個別の質問に対応しやすい | 電池、通信、誤訳の問題がある |
| 通訳・災害時外国人支援 | 複雑な相談や制度説明が可能 | 初動で人員を確保できない場合がある |
宿泊施設は全33室にヘルメットと懐中電灯
富士市の外国人宿泊客が多いゲストハウスでは、全33室にヘルメットと懐中電灯を設置している。チェックイン時には避難の呼びかけや避難場所を説明し、施設として定期的な避難訓練も行っているという。
観光客は土地勘がなく、地名や防災行政無線を理解できないことがある。夜間の地震では、出口の位置、靴、ライト、頭部を守る道具が生死を分ける。客室に装備を置くだけでなく、使い方と集合場所を事前に伝えることが重要だ。
外国人は「災害弱者」と決めつけられない
日本語情報を理解しにくい人や地域の避難場所を知らない旅行者は、災害時に不利になりやすい。一方、外国人を一律に助けられる側とみなすのも適切ではない。多言語能力、地域ネットワーク、医療・救助の経験を持ち、支援者として活動できる人もいる。
富士宮市の担当者は、外国人にも災害を自分事として捉え、自分の身を守ること、近隣で助け合うことを求めている。情報へのアクセスを保障しつつ、本人にも備蓄、避難経路の確認、訓練参加を促すという考え方だ。
「公助」だけでは初動を支えきれない
| 主体 | 平時に準備すること |
|---|---|
| 自治体 | 多言語情報、やさしい日本語、避難所表示、通訳体制、住民登録時の案内 |
| 雇用主 | 勤務先と住居の避難計画、訓練、緊急連絡、家族を含む安否確認 |
| 学校・支援機関 | 防災用語の学習、地域訓練への参加、情報源の周知 |
| 宿泊事業者 | 客室備品、避難経路、夜間誘導、宿泊者名簿と多言語説明 |
| 外国人本人 | 備蓄、避難場所、災害アプリ、家族との連絡方法の確認 |
大規模災害では、行政の支援が全地域へ直ちに届くとは限らない。最初の数時間から数日は、自助と近隣の共助が不可欠だ。外国人住民が自治会や防災訓練に参加できるよう、開催情報を多言語・やさしい日本語で伝える工夫が必要になる。
雇用主が確認すべき防災項目
- 外国人従業員の居住地とハザードマップ上のリスク
- 勤務中・通勤中・休日それぞれの安否確認方法
- 母語またはやさしい日本語による避難手順
- 停電時にも見られる紙の連絡先と避難地図
- 家族の避難場所と緊急連絡先
- 寮の家具固定、消火器、備蓄、非常口
- 帰宅困難時の待機場所と水・食料
研修資料を配るだけでは不十分だ。実際に非常口まで歩く、ヘルメットを着用する、緊急地震速報の音を聞く、119番通報の練習をするなど、体験型の訓練が理解につながる。母国で地震経験が少ない人には、日本特有の「まず身を守る」「津波はすぐ高台へ」といった行動を具体的に伝えたい。
外国人本人が今すぐできる備え
- 自宅、職場、学校、宿泊先に最も近い避難場所を確認する。
- 自治体の防災メールや公式アプリ、信頼できる災害情報アプリを登録する。
- 水、食料、薬、モバイルバッテリー、身分証明書の写しを準備する。
- 家族と連絡が取れない場合の集合場所を決める。
- 津波、土砂災害、洪水、噴火など地域固有のリスクを確認する。
- 地域や職場の避難訓練へ参加する。
SNSの災害情報は発信元を確認
大規模災害時には、過去の映像、別地域の被害、根拠のない犯罪情報などが拡散することがある。外国語で共有された情報も、自治体、気象庁、消防、警察、公共放送などの発信と照合する必要がある。
翻訳された投稿では、避難指示と避難所開設、注意報と警報など、制度上異なる言葉が同じように訳される場合がある。日時、対象地域、発信機関、更新履歴を確認し、不確かな情報を善意で転送しないことが被害防止につながる。






編集部まとめ
- 富士宮市は市内44か所すべての指定避難所に、英語・ポルトガル語・スペイン語・ベトナム語を含む多言語表示シートを配備した。
- 富士市の宿泊施設では全33室にヘルメットと懐中電灯を置き、避難説明と訓練を行っている。
- 紙の多言語シートは通信障害時に強いが、やさしい日本語、図記号、通訳などとの併用が必要である。
- 自治体だけでなく、雇用主、学校、宿泊事業者、外国人本人にも平時の準備が求められる。
- 外国人を一律に支援対象と決めつけず、地域防災の担い手として参加できる仕組みが重要だ。
出典
内部関連記事













コメント