日本で働く技能実習生や特定技能外国人から、暴行やセクハラ、賃金未払い、妊娠を理由とする退職・帰国の圧力を訴える声が相次いでいる。TBS「報道特集」が2026年9月12日に報じたのは、北海道京極町の農業法人で働いていたミャンマー人らの証言と、福岡県内の高齢者施設で働いていたフィリピン人技能実習生の裁判だった。
報道された行為はいずれも当事者側の訴えや係争を含み、個別の事実認定は捜査・裁判・労使交渉を待つ必要がある。一方、日本国内で働く限り、国籍や在留資格にかかわらず労働関係法令が原則として適用される。外国人材の受け入れ人数を増やす一方で、相談、監督、転籍、住環境の確認が機能しなければ、日本は働き手から選ばれない国になりかねない。
新人記者ナルカ


報道された事案の概要
- 報道日:2026年9月12日
- 北海道の事案:京極町の農業法人で働いていた特定技能のミャンマー人男性らが、暴行、暴言、賃金未払い、劣悪な寮環境などを訴えた
- 避難した人数:報道によると、これまでにミャンマー人7人が農場から離れた
- 住環境:男性従業員が月2万円を支払っていた寮は汚れがひどく、ネズミが走り回っていたと報じられた
- 団体交渉:9月9日、法人側は未払い賃金などを支払う姿勢を示した一方、セクハラの訴えは否定したとされる
- 福岡の事案:フィリピン人技能実習生が、妊娠後に中絶や帰国を促されたとして監理団体などに損害賠償を求めた
- 裁判:2026年8月4日、裁判所が監理団体などに300万円を超える賠償を命じたと報じられた
北海道の事案では、外国人従業員が撮影した映像に、60代の町議とみられる男性が大声を上げ、ミャンマー人男性の胸ぐらをつかむ様子が映っていたとされる。女性従業員は尻を叩かれるなどのセクハラを受けたと訴えた。報道時点で法人側は未払い賃金への対応姿勢を示したが、セクハラを否定し、映像に関する暴行の問題は団体交渉で話し合われなかったという。
時系列で見る経緯
| 時期 | 主な出来事 |
|---|---|
| 2019年 | フィリピン人女性が技能実習生として来日し、福岡県上毛町の高齢者施設で勤務を開始。 |
| 来日から約1年半後 | 女性が妊娠。監理団体との会話で、中絶や帰国を促す趣旨の発言があったと訴えた。 |
| 2026年8月4日 | 裁判所が、監理団体などに300万円を超える賠償を命じたと報じられる。 |
| 2026年7月中旬 | 北海道京極町の農業法人で、町議とみられる男性が外国人従業員の胸ぐらをつかむ映像が撮影されたとされる。 |
| 2026年9月7日 | 農場を離れた特定技能のミャンマー人男性が記者会見し、暴行や恐怖を訴える。 |
| 2026年9月9日 | 労働組合と法人側が団体交渉。未払い賃金などへの対応、セクハラの訴えをめぐり協議。 |
| 2026年9月12日 | TBS「報道特集」が一連の外国人労働者の人権問題を報道。 |
何が問題になっているのか
在留資格が弱い立場を生みやすい
技能実習や特定技能では、仕事だけでなく在留、住居、日本語支援、生活相談を受入れ機関や監理団体に依存する場面が多い。雇用主と対立すれば、収入と住まいを同時に失う不安が生まれる。制度上は相談窓口や実習先変更の仕組みがあっても、本人が日本語で状況を説明できない、周囲に知られず相談できない、次の職場が見つからないといった壁がある。
この力関係の差が、暴言や賃金未払いを訴えにくくする。制度を適正に運用するには、労働者本人が受入れ企業から独立した窓口へ母国語で相談でき、緊急時には安全な住居へ移れる仕組みが欠かせない。
寮費を取るなら住環境の説明責任がある
報道では、ミャンマー人男性らが月2万円を支払う寮にネズミが出ていたとされる。家賃の額だけでは適正かどうかを判断できず、広さ、設備、衛生、光熱費、給与からの控除方法を合わせて確認する必要がある。ただし、労働者が自由に選べない社宅や寮で費用を徴収する以上、受入れ側には安全で衛生的な生活環境を確保し、控除内容を理解できる言語で示す責任がある。
妊娠・出産を理由に帰国を迫ることは許されない
外国人技能実習機構は、妊娠や出産を理由として技能実習を一方的に終了させることはできず、解雇などの不利益取扱いも禁止されると繰り返し周知している。本人が一時帰国を希望する場合と、監理団体や勤務先が帰国を事実上強制する場合は明確に区別しなければならない。
報道されたフィリピン人女性は「子どもを産みたい」と伝えた後、中絶を意味する言葉を示され、帰国して出産したという。妊娠した労働者を雇用上の負担として扱えば、人権侵害にとどまらず、制度全体への信頼を損なう。
監督指導の数字が示す構造的な課題
厚生労働省が公表した2024年の監督指導結果では、技能実習生を使用する1万1594事業場を監督し、8310事業場で労働基準関係法令違反が認められた。特定技能外国人を使用する事業場では、5750事業場のうち4395事業場で違反が認められ、割合は76.4%だった。
| 対象 | 監督指導した事業場 | 法令違反が認められた事業場 |
|---|---|---|
| 技能実習生を使用 | 1万1594 | 8310 |
| 特定技能外国人を使用 | 5750 | 4395 |
これは外国人を雇う全事業場の違反率ではない。法令違反の疑いがある事業場などを監督した結果であり、母集団全体へ単純に当てはめることはできない。それでも、監督対象で多数の違反が確認された事実は重い。受入れ人数の拡大に合わせ、監督官、通訳、相談員、緊急保護先を増やす必要がある。
日本の雇用と国益にどう関係するのか
外国人労働者の人権を守ることは、外国人だけを特別扱いすることではない。劣悪な労働条件を放置すれば、法令を守る企業が価格競争で不利になり、日本人を含む労働市場全体の賃金と安全基準が下がる。適正な企業を守るためにも、悪質な受入れ機関を市場から退出させる仕組みが必要である。
また、送り出し国ではSNSや口コミを通じて日本の職場情報が共有される。暴行や妊娠差別の報道が積み重なれば、人手不足分野が必要とする人材は他国を選ぶ。受入れ上限の議論と同じくらい、来日した人が安全に働き、正当に賃金を受け取れるかが国益に直結する。
賛成・反対・中立の視点
監督と処分の強化を求める視点
暴行、セクハラ、賃金未払い、妊娠を理由とする圧力が事実であれば、行政処分だけでなく刑事・民事上の責任を厳正に問うべきだという考え方である。名義だけを変えて受入れを続けるような潜脱を防ぎ、経営者や実質的支配者まで確認する必要がある。
中小事業者の負担も見る視点
農業や介護の現場には、人手不足と低い収益性の中で外国人を支える事業者も多い。すべての受入れ企業を一括して悪質とみなすべきではない。多言語対応や住居整備の費用を企業だけに負わせず、業界団体や自治体が共同支援する仕組みも必要である。
制度設計を重視する中立的視点
個別企業への処分に加え、労働者が安全に職場を移れる制度、独立した監査、寮費の透明化、妊娠・出産時の支援を標準化する必要がある。善意に依存せず、不利益を訴えても在留と生活が直ちに不安定にならない制度に改めることが重要だ。
クロ助とナルカの視点


















編集部まとめ
- 報道の要点:北海道の農業法人で働いたミャンマー人らが暴行、セクハラ、未払い賃金、劣悪な寮環境を訴え、福岡では妊娠後に帰国などを迫られたとするフィリピン人女性の裁判が報じられた。
- 法制度:日本国内では国籍を問わず労働関係法令が適用され、妊娠・出産を理由とする不利益取扱いは禁止される。
- 統計上の警告:厚労省の2024年監督指導では、技能実習・特定技能の対象事業場で多数の法令違反が確認された。
- 国益的示唆:悪質事業者の排除、独立相談、転籍支援、住環境の透明化は、外国人だけでなく日本の雇用市場と適正企業を守る。
出典
- TBS NEWS DIG「寮にはネズミも…劣悪環境で働く外国人労働者 暴行・人権侵害の訴え相次ぐ」2026年9月12日
- 厚生労働省「外国人技能実習生又は特定技能外国人を使用する事業場に対して行った令和6年の監督指導、送検等の状況」
- e-Gov法令検索「労働基準法」
- 外国人技能実習機構「妊娠等を理由とする技能実習生の不利益取扱いの禁止の徹底」
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