政府が、外国人を「高度専門職」として認定する高度人材ポイント制について、年収基準を引き上げる方向で見直しを進めている。
日本経済新聞は2026年8月14日、政府が高度外国人材の認定基準を厳しくし、2026年度中にも法務省令を改正する方針だと報じた。政府の公式資料でも、高度人材ポイント制について「年収基準等の見直し」と「ポイント加算項目の整理」を行い、制度の適正化と審査迅速化を進める方針が明記されている。
現行制度では、学歴、職歴、年収、研究実績、年齢、日本語能力などを点数化し、原則70点以上で「高度専門職1号」の対象となる。さらに、高度専門・技術活動と高度経営・管理活動では、年収300万円未満の場合、他の項目で70点以上あっても高度人材として認定されない。
ただし、2026年8月15日時点で、政府は新たな最低年収額や年収ポイントの具体的な新基準を公表していない。「年収300万円が○○万円へ確定した」といった情報は現段階では確認できない。
今回の見直しは、外国人高度人材の受け入れ自体を停止するものではなく、「高度人材」として永住優遇や家族帯同などの特例を受ける外国人について、賃金水準や専門性に見合った選別を強める方向とみられる。
新人記者ナルカ


政府が高度人材の年収基準を見直しへ
政府は「外国人の受入れ・秩序ある共生社会」に関する政策の一環として、高度人材ポイント制の見直しを進めている。
内閣官房が公表した「国民の安全・安心のための取組の概要」では、法務省の施策として次の方向性が示されている。
- 高度人材ポイント制の在留実態を確認する
- ポイント加算項目における年収基準等を見直す
- ポイント加算項目を整理する
- 制度を適正化する
- 審査を迅速化する
日本経済新聞は、この見直しについて2026年度中にも省令改正を行う方向だと報じている。
そもそも「高度人材ポイント制」とは
高度人材ポイント制は、高い専門能力を持つ外国人の受け入れを促進するため、2012年5月に導入された制度である。
出入国在留管理庁は、高度外国人材の活動を大きく3種類に分けている。
| 区分 | 主な対象 |
|---|---|
| 高度学術研究活動(1号イ) | 大学教授、研究者など |
| 高度専門・技術活動(1号ロ) | IT技術者、エンジニア、専門職など |
| 高度経営・管理活動(1号ハ) | 企業経営者、役員、管理職など |
それぞれについて、学歴、職歴、年収、研究実績、年齢などをポイント化し、原則として合計70点以上で高度外国人材と認定する。
現在は年収300万円が「最低ライン」となる類型も
現行の高度専門職ポイント計算表には重要な注意書きがある。
高度専門・技術活動(1号ロ)と高度経営・管理活動(1号ハ)では、年収が300万円に満たない場合、他の項目で70点以上となっても高度専門職外国人として認められない。
つまり、博士号、長い職歴、日本語能力などで高いポイントを獲得していても、対象となる年収が300万円未満なら認定されない。
ただし、この300万円は「年収300万円あれば高度人材になれる」という意味ではない。
あくまで最低条件の一つであり、そのうえでポイント合計70点以上を満たす必要がある。
年収はポイント獲得でも大きな要素
高度人材ポイント制では、年収そのものもポイント項目になっている。
特に高度学術研究活動や高度専門・技術活動では、年齢と年収を組み合わせて加点される仕組みとなっている。
若い外国人ほど比較的低い年収からポイントを得やすく、年齢が上がるほど高い年収が必要になる。
例えば現行制度では、30歳未満の場合、年収400万円以上から年収ポイントを得られる場合がある。一方、年齢が高い申請者にはより高い年収水準が求められる。
今回政府が「年収基準等を見直す」としているため、単に最低年収300万円だけでなく、こうした年収ごとのポイント配点ラインも変更される可能性がある。
「最低年収」と「年収ポイント」は別物
| 制度 | 意味 |
|---|---|
| 最低年収条件 | 一定額未満なら70点以上あっても高度専門職に認定しない基準 |
| 年収ポイント | 年収額に応じて10点、20点、30点などを加える仕組み |
現行制度で高度専門・技術活動と高度経営・管理活動に設定されている300万円は前者に当たる。
一方、政府資料は「ポイント加算項目における年収基準等の見直し」と表現しているため、年収ポイントの配点基準を中心に見直す可能性もある。
2026年8月15日時点では、新制度で「最低年収が何万円になるのか」「どの年収帯で何ポイントになるのか」は正式発表されていない。
なぜ今、年収条件を引き上げるのか
一つの背景に、日本国内の賃金水準の変化がある。
高度人材ポイント制度の年収基準は導入後、加点項目の追加など複数回の改正を経ているが、日本国内の賃金水準や物価も上昇している。
「高度専門職」として特別な在留優遇を与えるのであれば、一般的な労働者と比べて一定以上の専門能力や経済的貢献を求めるべきだという考え方が背景にある。
政府資料でも「制度の更なる適正化」を目的として年収基準を見直すとしており、単純な外国人受け入れ拡大から、「どの人材を優先的に受け入れるか」という選別を重視する方向がうかがえる。
高度専門職には一般の就労ビザより大きな優遇
- 複数の在留資格にまたがる活動を認める
- 高度専門職1号では在留期間「5年」を付与
- 永住許可に必要な在留期間を大幅に短縮
- 配偶者の就労を一定条件で認める
- 一定の条件で親の帯同を認める
- 一定条件で家事使用人を帯同できる
- 入国・在留手続の優先処理
特に永住許可の特例は大きい。
高度人材ポイントが70点以上なら、原則10年必要な永住許可の在留歴要件が3年に短縮され、80点以上なら最短1年に短縮される。
ただし、70点・80点を満たせば永住が自動的に許可されるわけではない。素行、公的義務の履行、独立生計など、永住許可の他の要件も審査される。
「年収400万円で高度人材」は本当に可能なのか
SNSでは今回の報道を受け、「年収400万円程度でも高度人材と呼ばれている」と疑問を呈する投稿がみられる。
制度上、これは条件次第では起こり得る。
高度専門・技術活動では、若年、修士・博士号、長い職歴、日本の大学卒業、日本語能力、研究実績などを組み合わせれば、年収そのものが極端に高額でなくても70点に到達する場合がある。
しかし、それは「400万円だけで高度人材と認定する」という意味ではない。
複数項目による総合評価であるため、年収が比較的低くても、高い学歴や研究・専門能力を評価するという制度設計になっている。
日本語能力は現在も絶対条件ではない
高度人材ポイント制では、日本語能力試験N1やN2などが加点項目となる場合がある。
しかし、日本語能力は高度専門職認定の一律必須条件ではない。
英語で研究やIT業務を行う高度な技術者・研究者などについて、日本語能力が低くても学歴、職歴、年収、研究実績等で70点以上を満たせば認定される場合がある。
今回の政府方針は「ポイント加算項目の整理」も掲げているため、日本語能力を含むボーナス項目がどのように再編されるかも注目点となる。
「高度人材」と「技人国」は同じではない
外国人就労をめぐる議論で混同されやすいのが、「高度専門職」と「技術・人文知識・国際業務(技人国)」である。
技人国は、IT技術者、通訳、営業、設計など幅広い専門職に使われる一般的な就労資格である。
一方、高度専門職は、その中でも学歴、職歴、年収等をポイント化して一定以上の評価を得た外国人に対し、追加の優遇措置を与える制度である。
今回報じられた年収基準引き上げは高度人材ポイント制の見直しであり、すべての技人国外国人について最低年収を一律に引き上げるという発表ではない。
J-Skip「特別高度人材制度」とも区別が必要
2023年4月には、ポイント制とは別に「特別高度人材制度(J-Skip)」が導入された。
J-Skipではポイント計算を行わず、学歴または職歴と高額な年収条件を直接満たした場合に高度専門職として認定する。
現行制度では、研究者・技術者などについては、修士号以上または一定以上の職歴と年収2000万円以上、経営・管理分野では一定の職歴と年収4000万円以上など、通常のポイント制より大幅に高い条件が設定されている。
今回政府資料で明示されているのは「高度人材ポイント制」の見直しである。
したがって、現時点で「J-Skipの2000万円・4000万円基準も今回同時に引き上げられる」と断定することはできない。
高度人材から永住への「最短1年ルート」にも影響
高度人材ポイント制の年収基準が引き上げられれば、永住許可の特例を利用できる外国人の範囲にも影響する可能性がある。
高度人材として80点以上を持つ外国人は、一定条件で最短1年、70点以上なら3年で永住許可申請の在留歴特例を利用できる。
年収ポイントが取りにくくなれば、これまで80点に届いていた外国人が70点台へ下がったり、70点を下回ったりする可能性もある。
ただし、新基準を既に高度専門職で在留する人にどう適用するか、更新時に新基準を使うのか、経過措置を設けるのかなどは現時点で正式公表されていない。
既存の高度専門職にも適用される?
ここは今後の省令案で最も重要な確認点の一つである。
新規申請だけに新しい基準を適用するのか、既に高度専門職1号で在留する外国人の更新にも適用するのかによって影響は大きく異なる。
また、高度専門職2号へ変更する際の扱いや、高度人材ポイントを利用した永住申請時のポイント計算基準にも影響する可能性がある。
2026年8月15日時点では、政府・入管庁から具体的な経過措置は公表されていない。
外国人受け入れ政策は「量」から「質」へ?
今回の見直しは、政府が進めている外国人受け入れ政策全体の方向転換とも関係する。
政府は2026年度中に外国人受け入れの基本方針を策定するため、在留外国人数の将来推計や、経済、社会保障、地域社会への影響を分析している。
特定技能や育成就労では人手不足分野への受け入れを進める一方、高度人材についてはより高い所得や専門性を求める。
つまり、外国人を一律に増減させるのではなく、在留資格や経済貢献度によって受け入れ方を変える「選別型」の制度設計へ移行する可能性がある。
シンガポールは高度人材に年齢連動の高い給与基準
JP News Focusでは以前、高度外国人材とシンガポールの制度を比較している。
シンガポールの専門職向けEmployment Passでは、最低給与を設定するだけでなく、年齢が高くなるほど必要給与も上昇する。
さらにCOMPASSと呼ばれる評価制度で、給与、学歴、企業内の国籍構成、現地人材雇用、技能不足分野などを総合評価する。
日本も今回、年収基準の引き上げとポイント項目の整理を進めるため、「高度人材」という名称に見合う所得・能力をどこまで求めるかが焦点となる。
賛成・反対・中立の視点
厳格化を支持する視点
高度専門職は、永住許可の在留歴短縮、家族や親の帯同など一般の外国人労働者より大きな優遇を受ける。そのため、日本の賃金水準が上昇する中で、長年据え置かれた年収基準を見直し、本当に高い専門性と経済貢献を持つ人材に制度を限定すべきだという考え方がある。
優秀な人材獲得競争への悪影響を懸念する視点
一方、高度人材は世界各国が獲得を競っている。研究者やスタートアップ人材の中には、若いうちは給与が高くなくても将来大きな技術革新を生む人材も存在する。年収だけを過度に重視すれば、日本が優秀な若手を獲得しにくくなる可能性もある。
年収と能力を両方見るべきという視点
最も重要なのは、単に最低年収額を上げるだけではなく、「日本にどのような価値をもたらす人材なのか」を評価できる制度にすることだ。研究実績、特許、専門資格、実務経験、日本語能力、雇用する企業の実態、納税・社会保険履行などを組み合わせ、高度専門職としての優遇に見合う人材を選別する仕組みが必要となる。
クロ助とナルカの視点


















編集部まとめ
- 政府方針:高度人材ポイント制の年収基準等を見直し、ポイント加算項目も整理する。
- 改正時期:日本経済新聞は2026年度中にも省令改正を行う方向と報道。
- 現行制度:学歴、職歴、年収、研究実績、年齢、日本語能力などを点数化し、原則70点以上で高度外国人材と認定。
- 最低年収:高度専門・技術活動と高度経営・管理活動では、現行制度上、年収300万円未満なら70点以上でも認定されない。
- 注意:300万円は「これだけあれば高度人材になれる」という基準ではない。
- 具体的新基準:2026年8月15日時点で、新しい最低年収額やポイント配点は公表されていない。
- 永住への影響:年収ポイントの引き上げ次第では、70点・80点による永住許可の在留歴短縮特例にも影響する可能性がある。
- J-Skip:ポイント制とは別制度。今回の政府資料からJ-Skipの2000万円・4000万円基準も変更されるとは確認できない。
- 既存者:既に高度専門職で在留する外国人への経過措置や更新時の取扱いは未公表。
- 政策の方向:外国人受け入れ停止ではなく、高度専門職の優遇に見合う人材の選別を強める改革とみられる。
出典
- 日本経済新聞「外国人の高度人材、認定の年収条件引き上げ 26年度にも省令改正」2026年8月14日
- 内閣官房「国民の安全・安心のための取組の概要」
- 出入国在留管理庁「高度人材ポイント制とは?」
- 出入国在留管理庁「ポイント評価の仕組みは?」
- 出入国在留管理庁「高度専門職ポイント計算表」
- 出入国在留管理庁「特別高度人材制度(J-Skip)」
- 出入国在留管理庁「永住許可に関するガイドライン」
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