日本の国旗を公然と傷つける行為を処罰する「国旗の損壊等の処罰に関する法律案」、いわゆる国旗損壊罪創設法案が、2026年6月30日の衆議院本会議で可決された。法案は参議院へ送られるが、提出会派の一部が採決を欠席し、自民党内からも棄権が出る異例の展開となった。
法案は、国旗及び国歌に関する法律に定める国旗として用いられていると社会通念上認められる有体物を対象に、人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法で、公然と損壊、除去、汚損した者を「2年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金」とする内容である。
国旗は国家の象徴であり、日本社会の秩序や国民感情に関わる。一方で、刑罰によって国旗への敬意をどこまで保護するのかは、表現の自由や政治的抗議の自由とも接する。国益と自由の均衡をどう設計するかが、参議院審議の焦点となる。
新人記者ナルカ


国旗損壊罪法案が衆議院を通過
フジテレビ系FNNの報道によると、国旗損壊罪を新たに設ける法案は2026年6月30日、衆議院本会議で自民党と日本維新の会などの賛成多数により可決された。法案を共同提出した国民民主党と参政党は、野党として本会議を欠席し、採決に加わらなかった。
さらに、自民党の岩屋毅前外務大臣は採決前に本会議場から退場して棄権した。FNNによると、岩屋氏は退場後、「国旗を尊重するという意識は自然な形で育まれるべきものであって、刑罰で強制されるべきものではない」と説明した。
TBSも、国旗損壊罪法案が衆院本会議で与党の賛成多数により可決され、共同提出した国民民主党と参政党が欠席したと報じている。法案は今後、参議院で審議される。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 法案名 | 国旗の損壊等の処罰に関する法律案 |
| 提出回次 | 第221回国会、衆法第18号 |
| 提出日 | 2026年6月16日 |
| 提出会派 | 自由民主党・無所属の会、日本維新の会、国民民主党・無所属クラブ、参政党 |
| 衆院内閣委員会 | 2026年6月26日に可決 |
| 衆院本会議 | 2026年6月30日に可決 |
| 今後 | 参議院で審議へ |
法案の中身:何が処罰対象になるのか
衆議院の法案本文によると、この法律でいう「国旗」とは、国旗及び国歌に関する法律に定める国旗として用いられていると社会通念上認められる有体物をいう。内閣府が所管する国旗及び国歌に関する法律では、国旗は日章旗とされている。
罰則の対象は、「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法」により、「公然と」国旗を損壊し、除去し、又は汚損する行為である。罰則は2年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金とされる。
法案は、判断基準についても「行為の外形、周囲の状況その他の客観的な事情を総合的に勘案して行う」と定めている。つまり、個人の内心を直接処罰するのではなく、行為の見え方や状況を客観的に判断する建て付けである。
衆議院の法案要綱では、処罰対象を「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法により、公然と国旗を損壊し、除去し、又は汚損した者」と整理している。
創作物や報道、リポストは対象外と説明
自民党は2026年6月2日付の説明で、法案の保護法益を「国旗を大切に思う国民感情」とした。国旗については、社会通念上、国旗の用に供していると認識される有体物と説明し、「お子さまランチの旗」や「絵画の一部として描かれた旗」、アニメ、マンガ、ゲーム、生成AIなどによる創作物は対象外としている。
また、自ら損壊等をしている状況をライブ配信することは罰則の対象になり得る一方、国旗を損壊している様子を報道したり、リポストしたりする行為は対象外と説明している。FNNも、国旗を傷つける様子を撮影してSNSで拡散することや、アニメ、映画などの創作物は処罰対象外と報じている。
ただし、条文上は「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法」という評価概念が残る。この範囲を捜査機関や裁判所がどう運用するかは、今後の参議院審議や実務上の重要論点である。
外国国章損壊罪との均衡という論点
現行刑法には、外国に対して侮辱を加える目的で、その国の国旗その他の国章を損壊、除去、汚損した場合を処罰する「外国国章損壊等」の規定がある。一方で、日本の国旗そのものを対象にした独立の処罰規定は存在しない。
賛成側は、外国の国旗を傷つける行為は処罰できるのに、日本の国旗を傷つける行為について独立の処罰規定がないのは不均衡だと主張する。国際社会では国旗が国家の象徴として扱われる以上、日本の国旗についても一定の法的保護が必要だという考え方である。
一方、反対側は、外国国章損壊罪は国交に関する罪であり、外国との外交関係を保護する規定だとみる。日本の国旗損壊とは保護法益が異なるため、単純に「外国国旗が保護されるなら日本国旗も同じ」とは言えないという立場である。
表現の自由との関係
法案第3条は、適用に当たり、表現の自由その他の日本国憲法が保障する国民の自由と権利を不当に侵害しないよう留意しなければならないと定めている。これは、政治的抗議、報道、創作表現との衝突を避けるための規定といえる。
ただし、日弁連や人権団体は、国旗損壊罪の創設に反対する声明を出している。日弁連は2026年6月26日付の会長声明で、思想・良心の自由、表現の自由、適正手続などを侵害するおそれを指摘した。アムネスティ・インターナショナル日本も、国家や象徴への批判や抗議を表明する自由が保障されるべきだとして反対している。
国旗への敬意を守る必要性と、国家への抗議表現を刑罰で抑え込まない必要性。この二つをどこで線引きするかが、今回の法案の最大の争点である。
国旗への敬意と制度の慎重運用
日本国民の立場から見れば、国旗は単なる布ではなく、国家、歴史、共同体を象徴するものだ。外国人観光客や在留外国人が増えるなか、日本の国旗や国歌、公共空間のルールに対する理解を促すことは、社会秩序と国民感情の安定に資する。
特に、国際的なスポーツ大会、外交行事、抗議活動、SNS動画の拡散が重なる時代には、国旗を侮辱的に扱う行為が瞬時に社会的対立を広げる可能性がある。国旗を尊重する社会的規範を明確にすること自体には、一定の意義がある。
一方で、刑罰は最も強い国家権力の行使である。運用が拡大すれば、政府批判や政治的表現への萎縮効果を生むおそれがある。国益を守るためにも、処罰対象は限定的で、客観的で、予見可能なものにしなければならない。
賛成・反対・中立の視点
賛成する視点
国旗は国家の象徴であり、これを公然と損壊・汚損する行為は国民感情を大きく傷つける。外国国章損壊罪との均衡を考えても、日本国旗を保護する独立の規定を設けることには合理性がある。国際化が進むなか、日本の象徴を尊重する最低限のルールを示すことは、社会秩序を保つうえで意味がある。
反対・慎重な視点
国旗への敬意は、刑罰で強制するものではなく、教育や社会的理解によって育まれるべきだという考え方である。政治的抗議として国旗を用いる行為まで萎縮させれば、表現の自由を侵害するおそれがある。「人に著しく不快又は嫌悪」という要件も、運用次第で範囲が広がる懸念が残る。
中立的な視点
国旗を尊重する社会規範は重要だが、刑罰の対象は明確でなければならない。ライブ配信や公然性の高い悪質行為に限定するのか、政治的抗議や創作表現をどう除外するのかを、参議院審議でさらに詰める必要がある。成立後も、3年後の見直し規定を形式的にせず、運用件数や捜査実務を検証することが不可欠である。
今後の焦点
- 参議院で国民民主党、参政党など提出会派が採決にどう対応するか
- 与党が少数の参議院で、野党の協力を得られるか
- 「人に著しく不快又は嫌悪」の判断基準が具体化されるか
- 政治的抗議、報道、創作、SNS投稿との境界が明確化されるか
- 成立した場合、3年後見直し規定が実効的に運用されるか
FNNは、衆院可決を受けて法案の審議は参議院に移るが、与党が少数の参議院で可決・成立させるには野党の協力が不可欠であり、今国会での成立は不透明と報じている。法案の内容だけでなく、今後の国会運営そのものが焦点となる。
クロ助とナルカの視点


















編集部まとめ
- 衆院通過:国旗損壊罪創設法案は2026年6月30日、衆議院本会議で可決された。
- 異例の採決:共同提出会派の国民民主党と参政党が本会議を欠席し、自民党内からも退場・棄権が出た。
- 法案内容:公然と国旗を著しく不快又は嫌悪の情を催させる方法で損壊、除去、汚損した場合、2年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金とする。
- 主要論点:国旗への敬意と国民感情の保護、外国国章損壊罪との均衡、表現の自由との境界が問われている。
- 国益的示唆:日本の象徴を尊重する規範は重要だが、刑罰の運用は限定的かつ慎重でなければならない。
出典
- 衆議院「国旗の損壊等の処罰に関する法律案」2026年
- 衆議院「第221回国会 衆法第18号 議案審議経過情報」2026年
- 衆議院「国旗の損壊等の処罰に関する法律案要綱」2026年
- 内閣府「国旗及び国歌に関する法律」
- 自由民主党「国旗損壊罪を新設 法案を了承」2026年6月2日
- FNNプライムオンライン「国旗損壊罪創設法案が衆院本会議で可決」2026年6月30日
- TBS NEWS DIG「国旗損壊罪法案が衆院通過」2026年6月30日
- 日本弁護士連合会「国旗の損壊等の処罰に関する法律案に反対する会長声明」2026年6月26日
- アムネスティ・インターナショナル日本「国旗損壊罪創設は表現の自由を不当に制限」2026年6月25日











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