戦前にフィリピンへ渡った日本人男性を父に持つフィリピン残留2世のロサリナ・カンバ・フェルナンデスさん(95)が、日本の戸籍を作るために申し立てた「就籍」をめぐり、広島高裁松江支部が即時抗告を退けたことが分かった。共同通信などによると、支援団体は最高裁へ特別抗告する方針を示している。
高裁は、鳥取県伯耆町出身の神庭利太さんが日本人であり、フェルナンデスさんの生物学上の父である可能性は高いとしながら、出生時に法律上の親子関係が成立していたと認めるには不十分と判断した。戦争で婚姻関係を示す文書が失われた可能性がある中、DNAなどの新しい証拠をどう評価するかが問われている。
新人記者ナルカ


申し立ての概要
- 申立人:ロサリナ・カンバ・フェルナンデスさん(95)
- 立場:戦前にフィリピンへ渡った日本人男性を父に持つとする「フィリピン残留2世」
- 申立先:鳥取家裁米子支部
- 申し立て:日本の戸籍を作るための就籍許可
- 一審判断:申し立てを退ける
- 高裁判断:2026年9月9日、広島高裁松江支部が即時抗告を棄却
- 今後:支援団体は最高裁へ特別抗告する方針
時系列で見る経緯
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 戦前 | 父とされる日本人男性がフィリピンへ渡り、現地女性との間にフェルナンデスさんが生まれたとされる。 |
| 終戦後 | 父は日本へ強制送還され、母子はフィリピンに残されたと報じられている。 |
| 1983年 | 父とされる神庭利太さんが死去。 |
| 2025年 | 支援活動を通じ、鳥取県内の父方親族が見つかり、写真やDNAなどの資料が集められたとされる。 |
| 2026年 | 鳥取家裁米子支部が就籍の申し立てを退け、申立人側が即時抗告。 |
| 9月9日 | 広島高裁松江支部が即時抗告を棄却。 |
| 9月14日まで | 決定内容が報じられ、支援団体が最高裁への特別抗告方針を表明。 |
「就籍」とは何か
就籍は、日本国籍を有すると考えられるものの戸籍がない人が、家庭裁判所の許可を得て戸籍を作るための手続きである。外国人が法務大臣の許可を受けて日本国籍を取得する「帰化」とは異なる。
そのため今回の申し立ては、新たに日本人になることを求めるというより、「出生時から日本国籍を持っていたことを前提に戸籍を作れるか」が中心になる。一般に国籍の取得要件は出生時に適用される法令や親子関係によって判断され、現在の国籍法だけを見て結論を出せる問題ではない。
高裁が重視した点
報道によると、高裁は神庭さんが日本人であり、フェルナンデスさんの生物学上の父である可能性が高いこと自体は認めた。一方、両親が婚姻していたことなど、出生時に法律上の親子関係が成立していたと認める証拠が十分ではないとして、一審判断を支持した。
申立人側は、父母が結婚していたことを示す資料が戦争で失われたと主張している。約1世紀前の海外での身分関係について、現存する公文書を求めることが現実的か、写真、証言、親族関係、DNA鑑定をどこまで代替証拠として評価できるかが大きな論点だ。
フィリピン残留2世とは
戦前、農園開発や道路建設、商業などのため多くの日本人がフィリピンへ移住した。現地で家庭を築いた人もいたが、太平洋戦争の終結後、日本人の父が死亡、送還、行方不明となり、現地に残された子どもたちがいた。
反日感情や差別を避けるため日本人の出自を隠した人もおり、戸籍や婚姻証明などの資料が戦禍で失われた例もある。高齢化が進む中、父親の身元確認や国籍回復を求める手続きには時間的な制約がある。
DNA鑑定だけでは足りないのか
DNA鑑定は生物学上の親子関係を示す強い証拠になり得るが、国籍や戸籍は法律上の身分関係に基づいて判断される。出生時の法制度では、婚姻関係や認知の有無が父子関係の成立に影響する場合があり、裁判所は生物学的事実と法律上の関係を区別したとみられる。
一方、申立人を支援する側は、当時の国籍法の解釈や戦争で証拠が失われた事情を踏まえ、DNAなどを柔軟に評価すべきだと主張している。最高裁で審理される場合、個別の証拠評価だけでなく、戦争被害と国籍確認手続きの関係が注目される。
現在の国籍法との関係
現在の国籍法は、出生時に父または母が日本国民である子を日本国民とする。ただし、フェルナンデスさんが生まれた時代には別の法制度が適用されており、現行法の条文をそのまま当てはめることはできない。
この点を混同すると、「DNAが一致すれば現在の国籍法で直ちに日本人になる」といった誤解につながる。裁判で争われているのは、出生当時の法令と事実関係を前提に、日本国籍を有していたと認められるかである。
賛成・反対・中立の視点
救済を求める視点
国の戦争と送還政策によって家族が分断され、証明文書も失われたのであれば、その不利益を子どもに負わせるべきではない。DNAや父方親族の証言を積極的に評価し、生存中の救済を急ぐべきだという考え方である。
法的安定性を重視する視点
国籍は権利義務の基礎となるため、生物学上のつながりだけでなく、当時の法律に基づく親子関係を厳格に確認する必要がある。例外的判断を広げる場合も、明確な基準が必要だという考え方である。
制度整備を求める中立的視点
裁判所に個別救済を委ねるだけでなく、戦争で資料を失った残留2世に特化した証拠評価の指針や調査支援を国が整備する。本人の高齢化を踏まえ、迅速さと正確さを両立する仕組みが求められる。
クロ助とナルカの視点












編集部まとめ
- 裁判の要点:フィリピン残留2世の95歳女性が求めた就籍について、広島高裁松江支部は即時抗告を棄却した。
- 高裁の判断:日本人男性との生物学上の親子関係の可能性は高いとしながら、出生時の法律上の親子関係を示す証拠が不十分とした。
- 制度上の論点:戦争で文書が失われた場合、DNA、証言、写真などをどこまで代替証拠として評価するか。
- 今後:支援団体は最高裁へ特別抗告する方針で、他の残留2世の手続きにも影響し得る。
出典
- 共同通信/熊本日日新聞「残留2世の日本国籍認めず 高裁、95歳女性の抗告棄却」2026年9月14日
- テレビ朝日「フィリピン残留2世の95歳女性 日本国籍認められず」2026年9月12日
- e-Gov法令検索「国籍法」
- e-Gov法令検索「戸籍法」
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