政府は2026年7月28日、出入国在留管理庁の職員を緊急に226人増員することを閣議決定した。
平口洋法相は閣議後の記者会見で、不法残留者への対応強化と、在留審査の迅速化・厳格化のため、入国審査官176人、入国警備官50人を増員すると説明した。
外国人政策を担当する松島みどり首相補佐官のX投稿によると、入国審査官176人のうち137人は、「技術・人文知識・国際業務」、いわゆる「技人国」などの在留資格と実際の就労内容が一致しているかを調査する業務へ充てる。残る39人は、在留資格審査の迅速化を担当するという。
入国警備官50人については、不法就労者が多く確認されている茨城県を中心に、不法残留、不法就労、退去強制対象者への対応を強化するとされる。
政府は、入国警備官の採用確保策として、退職した自衛官や警察官などの活用も検討する。ただし、退職自衛官の採用枠、対象年齢、選考方法、研修内容、具体的な配置先が正式決定したとの発表はない。
今回の増員は、現行約6,700人の入管庁職員に対し約3.4%の上積みとなる。年度途中の定員増は異例だが、閣議決定した226人が7月中に一斉に採用・配置されるという意味ではない。定員規則などの改正を施行した後、年度内に採用や配置を進めるものとみられる。
新人記者ナルカ


入管庁職員226人増員の内訳
| 職種・担当 | 増員数 | 主な業務 |
|---|---|---|
| 入国警備官 | 50人 | 入管法違反の調査、摘発、収容、退去強制、送還など |
| 入国審査官・実態調査 | 137人 | 「技人国」などの在留資格と実際の就労内容の確認、勤務先調査、更新・変更審査 |
| 入国審査官・審査迅速化 | 39人 | 在留資格認定、変更、更新などの処理迅速化 |
| 合計 | 226人 | 在留管理の厳格化と適正な申請の迅速処理 |
法相会見で正式に示された職種別内訳は、入国審査官176人、入国警備官50人である。
審査官176人を137人と39人に分ける詳細は、松島首相補佐官の投稿で説明されたものだ。今後、入管庁から具体的な組織・地域別配置が公表された場合は、内容を更新する必要がある。
なぜ年度途中に緊急増員するのか
国家公務員の定員は、通常、翌年度予算や機構・定員要求を通じて調整される。
今回のように年度途中で200人を超える増員を行うのは異例であり、政府が在留外国人の増加、不法残留への対応、在留資格の不正利用、審査遅延を緊急課題と判断したことを示している。
2025年末の在留外国人数は412万5,395人で、前年末から35万6,418人、9.5%増加し、初めて400万人を超えた。
また、2025年の外国人入国者数は4,243万930人で、初めて4,000万人を超えた。観光客などの短期滞在者だけでなく、就労、留学、家族滞在などの申請や再入国も増えており、入国審査と在留管理の双方で業務量が拡大している。
「中長期在留者400万人超」ではない点に注意
松島補佐官の投稿は、「日本に中長期で滞在する外国人は400万人を上回る」と説明している。
入管庁の公式統計では、2025年末の中長期在留者は385万8,499人で、これに特別永住者26万6,896人を加えた「在留外国人数」が412万5,395人となる。
したがって、厳密には、中長期在留者単独では400万人未満であり、特別永住者を含む在留外国人全体が400万人を超えている。
政策の規模感を伝える際には、「在留外国人数」と「中長期在留者数」を区別する必要がある。
入国警備官50人を増員
入国警備官は、入管法に違反している疑いがある外国人について違反調査を行い、必要に応じて身柄を収容し、退去強制令書が発付された外国人の送還などを担う。
警察官とは別の国家公務員で、法務省の外局である出入国在留管理庁に所属する。
主な業務は次の通りである。
- 不法入国、不法残留、資格外活動などの違反調査
- 事業所、住居、関係場所への調査
- 違反者の摘発と身柄確保
- 収容施設での処遇
- 退去強制令書に基づく送還
- 警察、労働基準監督機関、自治体などとの合同対応
今回増員する50人は、不法残留者の摘発・送還能力を高める目的が中心となる。
不法残留者は約6万8,000人
政府関係者や松島補佐官の説明によると、2026年1月時点の不法残留者は約6万8,000人である。
2025年1月1日時点では7万4,863人、同年7月1日時点では7万1,229人だった。政府は2025年5月から「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」を進め、護送官付き国費送還の促進などを実施している。
約6,000人減少したとしても、6万人を超える不法残留者がいる状況に変わりはなく、所在確認、摘発、収容、送還を担当する職員の負担は大きい。
ただし、「不法滞在者」には、不法残留者のほか、不法入国者や不法上陸者なども含み得る。今回示された約6万8,000人は、主として在留期限を超えて滞在する不法残留者の人数として扱うのが適切である。
茨城県で集中的に取り締まり
入管庁が公表した2025年の入管法違反事件統計では、不法就労が確認された場所を都道府県別に見ると、茨城県が3,518人で全国最多だった。
2024年も茨城県は3,452人で最多となっており、農業や製造業などで不法就労が確認される事案が集中している。
このため、入国警備官の増員分を茨城県へ重点配置し、警察や労働関係機関と連携して摘発を強化する方針とされる。
一方、茨城県で働く外国人全体が不法就労者であるかのように扱ってはならない。統計が示しているのは、入管法違反事件として不法就労が確認された人数である。
不法就労とは
不法就労には、大きく次の類型がある。
- 不法入国者や不法残留者が働く
- 就労が認められていない在留資格の外国人が許可なく働く
- 認められた在留資格の範囲を超えて働く
- 資格外活動許可の時間や内容を超えて働く
在留資格を持っている外国人であっても、許可された活動内容と異なる仕事へ継続的に従事すれば、資格外活動や在留資格該当性の問題が生じる。
雇用主は不法就労助長罪に問われる可能性
不法就労は、働いた外国人だけの問題ではない。
外国人に不法就労をさせたり、不法就労をあっせんしたりした事業者は、入管法の不法就労助長罪に問われる可能性がある。
雇用主には、在留カード、在留資格、就労制限の有無、在留期間、資格外活動許可などを確認する責任がある。
「外国人本人から働けると言われた」「人材会社へ任せていた」という事情だけで、事業者の責任が当然に免除されるわけではない。
「技術・人文知識・国際業務」の実態調査を強化
入国審査官137人は、「技術・人文知識・国際業務」などの在留資格で働く外国人の業務実態を確認する担当へ配置するとされる。
「技術・人文知識・国際業務」は、自然科学・人文科学の知識や、外国文化に基盤を持つ思考・感受性を必要とする専門的な仕事を対象とする在留資格である。
対象となり得る職種の例
- ITエンジニア
- 機械・電気・建築分野の技術者
- 経理、法務、企画、マーケティング
- 通訳、翻訳
- 海外取引業務
- 語学指導
- デザイナー
大学卒業者であれば、どのような仕事でも認められる制度ではない。本人の学歴・職歴と、実際に従事する業務との関連性や専門性が必要となる。
単純労働への従事が問題に
松島補佐官は、技人国の在留資格を持ちながら、野菜加工などの単純作業へ従事していた例が摘発されていると指摘した。
在留資格申請書では通訳、営業、技術管理などと記載しながら、実際には工場のライン作業、商品の箱詰め、野菜の加工などを主業務としている場合、申請内容と就労実態が一致しない可能性がある。
ただし、専門職の外国人が一時的・付随的に現場作業を行っただけで、直ちに資格外活動になるとは限らない。業務全体に占める割合、雇用契約、職務内容、継続性などを個別に確認する必要がある。
勤務先への訪問調査
増員する審査官は、疑義のある事業所を訪問し、外国人が実際にどのような業務へ従事しているかを確認するとされる。
想定される確認資料には、次のものがある。
- 雇用契約書
- 職務内容説明書
- 勤務表、タイムカード
- 給与台帳
- 組織図
- 業務日報
- 派遣契約書、派遣先情報
- 外国人本人や上司への聞き取り
- 実際の作業場所と作業内容
調査結果は、現在の在留状況だけでなく、在留期間更新、在留資格変更、同じ企業による今後の外国人受け入れ審査へ影響する可能性がある。
入国審査官と入国警備官の違い
| 職種 | 主な役割 |
|---|---|
| 入国審査官 | 空港・港の入国審査、在留資格の認定・変更・更新、違反審査など |
| 入国警備官 | 入管法違反の調査、摘発、収容、護送、送還など |
名称は似ているが、審査官は許可・審査を中心に担当し、警備官は違反調査や身柄を伴う執行を担う。
審査迅速化へ39人
残る入国審査官39人は、在留諸申請の処理を迅速化する担当へ配置される。
在留外国人と外国人採用企業からは、在留資格認定証明書、在留期間更新、在留資格変更などの審査に数か月かかり、入社、転勤、事業開始が遅れるとの不満が出ている。
適正な申請まで一律に長期間待たせれば、本人だけでなく、採用企業、大学、医療機関、地域産業にも損失が生じる。
今回の増員は、「違反が疑われる案件は厳格に調べる一方、法令を守る企業と外国人の適正な申請は迅速に処理する」という二つの目的を持つ。
審査迅速化と厳格化は両立するのか
審査を速くすると確認が不十分になり、厳格にすると処理期間が延びるという問題がある。
両立には、職員増員だけでなく、次の仕組みが必要となる。
- オンライン申請の拡大
- 税、年金、健康保険などの行政情報連携
- 過去に問題のない企業の申請を効率化
- 虚偽申請リスクの高い案件へ調査を集中
- 在留資格ごとの必要書類の標準化
- AIやデータ分析による不正兆候の抽出
- 申請者が処理状況を確認できる仕組み
退職自衛官の活用を検討
政府は、不法滞在者の摘発・送還を担う入国警備官の確保策として、退職自衛官の活用を検討している。
平口法相は、元自衛官や元警察官などは即戦力になり得るとの考えを示した。
自衛官は比較的若い年齢で退職する場合があり、体力、規律、危機対応、海外任務などの経験を生かせる可能性がある。
ただし、入国警備官には、入管法、刑事手続、人権、外国語、収容・送還実務など、軍事・警察とは異なる専門性が求められる。
退職自衛官を採用する場合も、通常の採用基準、適性確認、法務研修、人権研修、語学教育を行う必要がある。
退職自衛官の採用はまだ制度決定ではない
松島補佐官は、自衛隊と連携して若手の退職自衛官を採用することも検討していると説明した。
しかし、現時点で次の事項は正式公表されていない。
- 退職自衛官専用の採用枠
- 採用人数
- 対象となる退職年齢
- 試験免除の有無
- 任期付きか常勤か
- 配置先
- 研修期間
- 自衛隊から入管庁への出向制度
送還業務と人権への配慮
退去強制が確定した外国人の中には、送還に抵抗する人、健康上の問題を抱える人、長距離の航空移動が必要な人もいる。
入国警備官には安全確保が必要だが、送還対象者の生命、身体、尊厳を守る義務もある。
拘束具の使用、医療確認、航空会社との調整、通訳、領事機関への連絡などを適正に行い、必要以上の有形力を使わない運用が求められる。
摘発・送還能力の強化と、人権保障は対立するものではない。法令に基づく執行だからこそ、記録、監督、検証が必要となる。
「不法滞在者ゼロ」は文字通りゼロにできるのか
不法滞在者ゼロプランは、対策の方向性を強く示す名称である。
実際には、在留期限を過ぎる人が新たに発生すること、所在不明者の確認に時間がかかること、旅券発給や受け入れ国との調整が必要なことなどから、統計上の人数を恒久的に完全なゼロへすることは容易ではない。
政策評価では、名称だけでなく、次の指標を見る必要がある。
- 新たに発生した不法残留者数
- 摘発人数
- 自主出頭人数
- 送還人数
- 長期収容者数
- 所在不明者の解消数
- 雇用主の摘発・是正件数
- 再発防止策の効果
企業側への影響
外国人を雇用する企業は、今後、書面上の在留資格だけでなく、現場の職務内容が申請と一致しているかを改めて確認する必要がある。
企業が確認すべき項目
- 在留カードの有効期限
- 就労制限の有無
- 在留資格と担当業務の一致
- 学歴・職歴と業務の関連性
- 派遣先での実際の職務
- 単純作業が主業務になっていないか
- 配置転換後も在留資格に適合するか
- ハローワークへの外国人雇用状況届出
外国人本人へ専門職としての契約書を交付しながら、実際には人手不足の現場作業へ常時投入する運用は、企業側の責任を問われる可能性がある。
適法な外国人・企業にも利益
入管庁の増員は、取り締まり強化だけを目的とするものではない。
適法に働き、税や社会保険料を納め、在留資格の要件を守っている外国人にとって、審査期間の短縮は生活と雇用の安定につながる。
適正に外国人を雇用する企業にとっても、入社や転勤の遅れが減れば、人員計画を立てやすくなる。
違反案件への調査を集中させ、適正案件を迅速に処理できるかが、今回の増員効果を判断する重要な基準となる。
増員だけで解決するのか
226人増員しても、在留外国人は400万人を超え、年間の外国人入国者は4,000万人を超えている。
職員数を増やすだけでは、長期的な業務増加へ対応しきれない可能性がある。
必要となるのは、次の総合的な改革である。
- 入管行政のDX
- 関係省庁とのデータ連携
- 審査基準の明確化
- 不法就労を生む悪質仲介業者への対策
- 雇用主への監督と罰則適用
- 外国人本人へのルール周知
- 職員の安全・人権研修
- 地方入管局の業務量に応じた配置
賛成・反対・中立の視点
増員を支持する視点
在留外国人と入国者が急増する中、入管庁の人員が不足すれば、不法滞在や資格外就労への対応が遅れ、適正な申請の処理も停滞する。摘発・送還と審査迅速化の両方へ人員を充てる今回の増員は必要だという立場である。
執行強化を懸念する視点
摘発や送還だけを強調すると、適法に暮らす外国人や外国人コミュニティへ過度な不安を与える可能性がある。職務質問、事業所調査、収容、送還は、国籍による偏見ではなく、客観的根拠と適正手続に基づくべきだという考え方である。
不法就労を生む企業側も追及する中立的視点
外国人本人だけを摘発しても、安価な労働力を求める雇用主や仲介業者が残れば、別の外国人が雇われる。外国人の在留管理と同時に、不法就労助長、虚偽申請、名義貸しを行う企業側への監督を強化する必要がある。
クロ助とナルカの視点
























編集部まとめ
- 閣議決定:政府は7月28日、入管庁職員を年度内に226人緊急増員することを決定。
- 職種別内訳:入国審査官176人、入国警備官50人。
- 詳細な担当:松島補佐官によると、審査官137人を「技人国」などの実態調査、39人を審査迅速化へ配置。
- 不法残留対策:2026年1月時点の不法残留者は約6万8,000人とされる。
- 茨城県:2025年に不法就労が確認された場所として3,518人で全国最多。警備官を重点配置する方針。
- 技人国調査:申請上の専門職と実際の業務が一致しているか、勤務先訪問などで確認。
- 適正申請:上場企業や適正事業者などの在留申請遅延を減らすため、39人を迅速化へ充てる。
- 退職自衛官:入国警備官への活用は検討段階で、専用枠や採用人数は未決定。
- 統計上の注意:400万人を超えたのは特別永住者を含む在留外国人数。中長期在留者単独は385万8,499人。
- 今後の焦点:実際の採用・配置時期、地域別内訳、審査期間の短縮効果、摘発・送還実績を検証する必要がある。
出典
- 松島みどり内閣総理大臣補佐官 公式X「外国人政策強化のため入管庁職員を緊急増員」2026年7月28日
- テレビ朝日系列「政府 入管職員226人の緊急増員を閣議決定 外国人の不法残留対策強化」2026年7月28日
- 共同通信/nippon.com「入管職員226人緊急増員 不法残留、審査厳格化に対応」2026年7月28日
- テレビ朝日「入国警備官に退職自衛官を活用へ 不法滞在者の取り締まり強化」2026年7月23日
- 出入国在留管理庁「令和7年末現在における在留外国人数について」
- 出入国在留管理庁「令和7年における外国人入国者数及び日本人出国者数等について」
- 出入国在留管理庁「令和7年における入管法違反事件について」
- 出入国在留管理庁「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」
- 出入国在留管理庁「在留資格『技術・人文知識・国際業務』」
- e-Gov法令検索「出入国管理及び難民認定法」













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