外国籍の妻が日本の老齢基礎年金を請求する際、婚姻関係を証明する書類として、日本人配偶者の戸籍謄本・抄本を提出できることが、日本年金機構の業務処理要領に明記された。
総務省中国四国管区行政評価局が2026年7月24日に公表した資料によると、従来、外国籍の年金請求者には、原則として本人の本国の公的機関が発行した婚姻証明書などを求めていた。
しかし、日本人配偶者の戸籍には外国籍配偶者との婚姻関係が記載されている場合がある。このため、配偶者が日本国籍で、日本国内で婚姻届を提出している場合には、日本人配偶者の戸籍謄本・抄本を身分関係の証明書類として提出できることが明確化された。
重要なのは、今回の対応が「外国籍の妻に新しい年金を支給する制度」ではない点である。年金を受け取る資格や金額が新設・拡大されたのではなく、既に受給資格を持つ外国籍の人が年金を請求する際の書類手続きが改善されたものだ。
新人記者ナルカ


総務省資料の要点
- 対象:外国籍の人が老齢基礎年金などを請求する際の身分関係証明
- 従来の原則:本人の本国の公的機関が発行した婚姻証明書などを提出
- 行政相談:日本人配偶者の戸籍抄本で代用できないかとの相談
- 日本年金機構の見解:日本人配偶者の戸籍でも婚姻関係の確認は可能
- 2025年12月:本国書類を取得できない場合の代替手続きを業務処理要領へ明記
- 2026年4月28日:日本人配偶者の戸籍謄本・抄本を、例外ではなく選択肢の一つとして明記
- 条件:配偶者が日本国籍で、日本国内で婚姻届を提出していること
新しい年金制度ではない
今回の総務省資料は、外国籍の妻に新たな年金給付を認める制度を紹介したものではない。
外国籍であっても、日本国内に住所を有し、国民年金や厚生年金の加入要件を満たして保険料を納付してきた人は、国籍にかかわらず年金を受け取ることができる。
今回見直されたのは、老齢年金の請求時に、配偶者との婚姻関係をどの書類で証明するかという事務手続きである。
したがって、次のような理解は誤りとなる。
- 日本人と結婚すれば外国籍の妻が無条件で年金を受給できる
- 保険料を納めていなくても配偶者の戸籍だけで年金を受け取れる
- 外国籍配偶者向けの新しい特別年金が創設された
- 日本人配偶者の年金をそのまま妻へ分ける制度が始まった
なぜ婚姻関係の証明が必要なのか
老齢基礎年金や老齢厚生年金の請求では、本人の年金記録だけでなく、配偶者との身分関係や生計維持関係を確認する場合がある。
特に、加給年金や振替加算の審査では、受給権者と配偶者が法律上の婚姻関係にあるかを確認する必要がある。
国民年金法施行規則では、受給権者と配偶者との身分関係を明らかにできる市町村長の証明書または戸籍の抄本を提出することが定められている。
厚生年金保険法施行規則でも、加給年金額の対象者と受給権者との身分関係を確認できる市町村長の証明書または戸籍の抄本を添付することが求められている。
従来は本国の婚姻証明書を要求
外国籍の人は日本の戸籍を持たないため、年金請求時には、原則として本国の公的機関が発行した戸籍に代わる証明書を提出する扱いとなっていた。
例えば、次のような書類である。
- 本国政府が発行した婚姻証明書
- 家族関係証明書
- 出生・婚姻などを記載した戸籍相当書類
- 在日大使館や領事館が発行する身分関係証明
しかし、国によっては証明書の取得に時間がかかる、現地の親族に依頼しなければならない、郵送や翻訳に費用がかかる、行政機関の事情で取得できないといった問題がある。
行政相談の内容
総務省中国四国管区行政評価局には、外国籍の妻が老齢基礎年金を請求する際、日本人夫との婚姻関係を証明するため、妻の本国の公的機関が発行した婚姻証明書を求められたとの相談が寄せられた。
相談者は、日本人である夫の戸籍抄本に妻との婚姻関係が明記されていることから、その戸籍抄本で代用できないかと疑問を示した。
行政評価局が日本年金機構へ確認したところ、配偶者が日本国籍を有する場合、日本人配偶者の戸籍抄本などによって婚姻関係を確認することは可能との見解が示された。
2025年12月の対応
日本年金機構は2025年12月、外国籍の受給権者が本国の公的機関発行の書類をやむを得ず取得できない場合の対応を、業務処理要領に明記した。
当時は、次の2点を案内する扱いだった。
- 日本人配偶者の戸籍謄本・抄本
- 本国の公的機関で書類を取得できない旨の申立書
この段階では、日本人配偶者の戸籍を使う方法は、本国書類を取得できない場合の例外的な対応として位置付けられていた。
2026年4月28日に選択肢として明確化
総務省中国四国管区行政評価局は2026年4月、日本年金機構に対し、日本人配偶者の戸籍謄本・抄本の提出を例外対応ではなく、通常の選択肢の一つとすることについて確認した。
これを受け、日本年金機構は2026年4月28日、次の条件を満たす場合には、日本人配偶者の戸籍謄本・抄本を添付できることを業務処理要領に明記し、全国の年金事務所へ周知した。
- 年金請求者の配偶者が日本国籍である
- 日本国内で婚姻届を提出している
- 日本人配偶者の戸籍に婚姻関係が記載されている
変更前と変更後
| 区分 | 書類の扱い |
|---|---|
| 従来の原則 | 外国籍本人の本国公的機関が発行した婚姻証明書など |
| 2025年12月以降 | 本国書類を取得できない場合、日本人配偶者の戸籍と申立書を案内 |
| 2026年4月28日以降 | 配偶者が日本国籍で日本で婚姻届を提出していれば、日本人配偶者の戸籍を選択可能 |
どの年金にも自動的に適用されるわけではない
総務省資料は、老齢基礎年金の請求と、加給年金・振替加算の審査に必要となる身分関係証明を中心に説明している。
外国籍の配偶者が年金を請求するすべての場面で、必ず日本人配偶者の戸籍だけで手続きが完了するとは限らない。
次のような書類を追加で求められる場合がある。
- 本人確認書類
- 在留カードやパスポート
- 年金手帳・基礎年金番号通知書
- 生計維持関係を確認する所得証明
- 世帯全員の住民票
- 本国の年金加入期間を確認する書類
- 外国語書類の日本語訳
具体的な必要書類は、請求する年金の種類や本人の加入記録によって異なるため、年金事務所へ事前確認する必要がある。
外国籍でも年金を受け取れる基本条件
日本の公的年金制度は、原則として国籍ではなく、日本国内の居住、就労、加入期間などに基づいて適用される。
外国籍の妻が老齢年金を受け取るためには、一般に次の要件が関係する。
- 国民年金または厚生年金へ加入していた
- 保険料納付済期間や免除期間などがある
- 受給資格期間が原則10年以上ある
- 原則65歳に達している
- 年金請求手続きを行う
日本人と結婚した事実だけで、妻本人の老齢基礎年金が発生するわけではない。
第3号被保険者の場合
日本人の夫が会社員や公務員として厚生年金に加入し、外国籍の妻が扶養要件を満たしている場合、妻は国民年金の第3号被保険者となることがある。
第3号被保険者の期間は、妻本人が国民年金保険料を直接支払っていなくても、老齢基礎年金の加入期間として扱われる。
ただし、次の条件を満たす必要がある。
- 原則20歳以上60歳未満
- 夫が厚生年金の第2号被保険者
- 夫に扶養されている
- 収入などの被扶養配偶者要件を満たす
- 必要な届出が行われている
外国籍だから特別に認められる制度ではなく、日本人配偶者と同じ年金制度上の要件が適用される。
加給年金と振替加算
加給年金
厚生年金の加入期間など一定の要件を満たす受給者に、生計を維持している65歳未満の配偶者がいる場合、老齢厚生年金に加給年金額が加算されることがある。
加給年金を受け取るのは原則として厚生年金受給者側であり、外国籍の妻へ直接支給される新しい年金ではない。
振替加算
加給年金の対象となっていた配偶者が65歳になると、一定の条件を満たす場合、その配偶者の老齢基礎年金へ振替加算が加わることがある。
今回の資料で婚姻関係の証明書が論点となったのは、こうした加算制度の審査において、配偶者との法律上の関係を確認する必要があるためである。
海外在住でも日本の年金を受け取れる場合
日本で年金受給権を取得した外国籍の人は、帰国後や海外移住後も、日本の年金を受給できる場合がある。
ただし、海外送金先の登録、現況届、租税条約、銀行口座の確認など、国内居住者とは異なる手続きが必要となることがある。
日本を出国する際に脱退一時金を受け取った場合、その計算対象となった加入期間は将来の年金受給資格期間や年金額に使用できなくなるため注意が必要である。
行政手続き改善の意味
今回の見直しにより、日本人配偶者の戸籍に婚姻関係が明確に記載されているにもかかわらず、外国籍本人の本国から同じ内容の証明書を取り寄せるという重複負担が軽減される。
期待される効果は次の通りである。
- 本国への証明書申請費用を削減
- 書類到着までの待ち時間を短縮
- 翻訳費用や認証手続きの軽減
- 本国行政機関から取得困難な場合の救済
- 年金事務所ごとの案内差を縮小
年金事務所ごとの運用差を防ぐ必要
総務省が管内の年金事務所へ確認したところ、原則として外国籍本人の本国公的機関が発行した書類を求めていたことが把握された。
日本年金機構本部では、日本人配偶者の戸籍で確認可能との見解があっても、現場の年金事務所で統一的に案内されていなければ、請求者に不要な負担が生じる。
今回、業務処理要領へ明記し、全国の年金事務所へ周知したことには、窓口ごとの判断差を減らす意味がある。
窓口で本国書類を求められた場合
配偶者が日本国籍で、日本国内で婚姻届を提出しているにもかかわらず、本国の婚姻証明書だけを求められた場合は、次の点を窓口へ確認するとよい。
- 日本人配偶者の戸籍謄本・抄本で代替できるか
- 2026年4月28日の業務処理要領改正が適用されるか
- 追加の申立書が必要か
- 戸籍の発行から何か月以内という条件があるか
- 婚姻届を日本で提出していることをどう確認するか
窓口で解決しない場合は、日本年金機構の年金相談窓口、ねんきんダイヤル、総務省の行政相談を利用できる。
制度を巡る誤解に注意
今回の資料は、見出しだけを見ると「外国籍の妻が日本の年金を受給できる新制度」と誤解される可能性がある。
実際には、外国籍の人も従来から加入要件を満たせば日本の年金を受け取ることができる。今回の変更は、その請求時に提出する婚姻関係証明の選択肢を増やしたものだ。
年金受給権の新設、保険料負担の免除、外国籍配偶者への特別給付ではない。
賛成・反対・中立の視点
手続き簡素化を評価する視点
日本人配偶者の戸籍に婚姻関係が明記されているなら、同じ事実を証明するため外国から書類を取り寄せる必要はない。行政手続きの重複を減らす合理的な改善だという立場である。
不正防止を重視する視点
国際結婚や外国籍の身分関係には、本国での婚姻状況や重婚の有無など、日本の戸籍だけでは確認できない事項もある。案件によっては本国書類を求める必要があるとの考え方である。
個別確認を求める中立的視点
日本人配偶者の戸籍で確認できる部分は簡素化し、本国でしか確認できない事実がある場合のみ追加書類を求める。必要性に応じて書類を選ぶ運用が妥当だとする立場である。
クロ助とナルカの視点


















編集部まとめ
- 制度の正体:外国籍配偶者向けの新しい年金ではなく、年金請求時の婚姻関係証明を簡素化する行政運用の改善。
- 従来:外国籍本人の本国公的機関が発行した婚姻証明書などを原則として要求。
- 新しい扱い:配偶者が日本国籍で、日本国内で婚姻届を提出している場合、日本人配偶者の戸籍謄本・抄本を提出可能。
- 明確化時期:日本年金機構が2026年4月28日に業務処理要領へ明記し、年金事務所へ周知。
- 受給要件:外国籍の妻も、加入期間や年齢など通常の年金要件を満たす必要がある。
- 効果:本国書類の取得、翻訳、認証にかかる時間と費用を減らせる。
- 注意点:請求する年金や加算内容によっては、所得証明や住民票など別の書類も必要となる。
出典
- 総務省中国四国管区行政評価局「外国籍の者が年金請求を行う際に必要な身分関係を証明する書類に関する情報収集結果について」2026年7月24日
- 国民年金法施行規則第16条
- 厚生年金保険法施行規則第31条の2
- 日本年金機構「業務処理要領(要領第197号)の一部改正」













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