日本とベトナムの両政府が、国内で逮捕・拘束した相手国民の情報を、本人の同意がなくても相互に通報できる新協定の締結を検討していることが分かった。時事通信が2026年11月3日、複数の日本政府関係者の話として報じた。11月9日に予定される高市早苗首相とベトナムのトー・ラム共産党書記長兼国家主席の会談で、締結を目指す方針を確認する見通しだ。
ただし、協定は現時点で未締結であり、本人の同意を不要とする仕組みがすでに始まったわけではない。報道では、通報の対象や具体的手続きを今後詰める必要があり、発効まで少なくとも2~3年を要する可能性が伝えられている。JP News Focusでは、協定案の内容、既存の領事通報制度との違い、犯罪統計、今後の課題を整理した。
新人記者ナルカ


日越の新協定案で分かっていること
| 報道日 | 2026年11月3日(時事通信) |
|---|---|
| 関係国 | 日本・ベトナム |
| 検討内容 | 自国内で逮捕・拘束した相手国民の情報を相互通報 |
| 主な変更点 | 本人の要請・同意がなくても通報できる仕組みを検討 |
| 首脳会談 | 2026年11月9日に方針を確認する見通し |
| 施行状況 | 未締結・未発効 |
| 開始時期 | 未定。発効まで少なくとも2~3年を要する可能性との報道 |
| 未確定の事項 | 通報対象の事件、情報の範囲、通報先、期限、個人情報の保護措置など |
報道によれば、日本側はベトナム当局が自国民の逮捕・拘束を早期に把握することで、犯罪抑止につながる可能性に期待している。一方、通報した情報をどの機関がどう扱うのか、本人の権利をどのように守るのかなどは、今後の協議で確認する必要がある。
現在の領事通報制度とは何が違うのか
領事関係に関するウィーン条約第36条は、外国人が逮捕・拘禁された場合、本人の要請があれば、受入国の当局がその国の領事機関へ遅滞なく通報する仕組みを定めている。当局は本人にその権利を知らせる必要があり、領事官による面会や弁護人のあっせんなどにも関係する。
今回の日越協定案は、この本人の要請を前提とする通報制度を二国間で補い、本人が望まなくても通報できる仕組みを検討するというものだ。「日本の警察がベトナムの公安に全捜査資料を無条件に渡す制度」と決まったわけではない。通報先や提供情報の詳細は、11月4日時点で公表された協定文により確認できる段階にはない。
同様の制度を検討する前例がないわけではない。外務省が公表する日中領事協定の説明では、本人の要請の有無にかかわらず、拘禁から4日以内に領事機関へ通報する仕組みが定められている。今回の日越協定でも、通報期限や対象となる拘束の種類が論点となりそうだ。
5月の首脳会談では「領事分野の協力強化」で一致
新協定案には前段階の外交協議がある。外務省によれば、2026年5月2日にハノイで高市首相とトー・ラム書記長兼国家主席が会談し、両国間の人的交流を踏まえて領事分野の協力を強化することで一致した。11月9日の会談で新協定の方針確認が実現するかが、次の注目点になる。
また、外務省はトー・ラム書記長兼国家主席夫妻が11月8~11日の日程で訪日する予定だと発表している。ただし、訪日予定が公表されていることと、協定の具体的条文に合意したことは別である。
背景にある来日ベトナム人の検挙統計
時事通信は、警察庁の統計として、2025年における来日ベトナム人の検挙件数が1万773件となり、前年比約11%増加したと伝えた。対象は永住者などを除く警察統計上の「来日外国人」であり、来日外国人全体の検挙件数の4割超を占めるという。
警察庁の「令和7年における組織犯罪の情勢について」(2026年4月公表)では、2025年の来日外国人犯罪の総検挙件数は2万5,480件、総検挙人員は1万2,777人だった。総検挙人員の国籍等別では、ベトナムが4,167人(32.6%)で最多とされている。
| 項目 | 2025年の数値 |
|---|---|
| 来日外国人犯罪の総検挙件数 | 25,480件 |
| うちベトナム関連の検挙件数(時事通信報道) | 10,773件 |
| 来日外国人犯罪の総検挙人員 | 12,777人 |
| うちベトナム国籍の検挙人員 | 4,167人(32.6%) |
ここで重要なのは「検挙件数」と「検挙人員」は別の統計であり、1万773件を1万773人と読み替えることはできない点だ。また、この区分には永住者等が含まれず、在留ベトナム人全員の犯罪率を直接示す数値でもない。事件の発生や検挙の動向を評価する際は、統計の対象と定義を明示する必要がある。
日越間ではすでに刑事共助や共同捜査も実施
今回の新協定が実現する前から、日越の捜査協力が全く存在しなかったわけではない。警察庁は、ベトナムとの間で刑事共助条約が締結されていると説明している。刑事共助は、証拠収集などの捜査上の協力を行う枠組みであり、今回検討される逮捕・拘束情報の領事通報とは目的や手続きが異なる。
直近では警察庁が2026年10月13日、銀行を装うボイスフィッシング事件を巡り、日本側の捜査を端緒にベトナムと国際共同捜査を実施し、ベトナム国内で関係被疑者7人が検挙されたと発表した。こうした具体例は、国境をまたぐ事件で当局間の連携が役立つことを示している。ただし、今回の領事通報協定が同じ効果を生むかは、制度設計と運用後の検証を待つ必要がある。
犯罪抑止と邦人保護、双方の効果をどう検証するか
犯罪抑止を期待する立場
日本側の政府関係者は、ベトナム当局が日本国内での逮捕・拘束を迅速に把握することが犯罪抑止につながると期待していると報じられた。通報の迅速化は、事件情報の共有を進めるきっかけになる可能性がある。ただし、逮捕情報の通知だけでどの程度犯罪が減るかについて、現段階で効果を示す検証結果は確認できていない。
ベトナムで拘束された日本人の保護
制度は相互通報を想定している。日本人がベトナム国内で拘束された場合、日本の領事当局が早期に事実を把握し、安否確認や領事支援につなげられる可能性もある。邦人保護という観点は、日本側が得る利点として見落とせない。
誤認逮捕、個人情報、人権への配慮
逮捕・拘束の段階は有罪の確定を意味しない。本人が通報を望まない場合にも情報を共有するのであれば、誤認逮捕時の訂正・削除、情報の保存期間、本人への告知、通報対象者に不利益が生じるリスクなどを検討する必要がある。犯罪対策と領事保護を進める一方で、個々の事情に配慮する仕組みが求められる。






よくある質問(FAQ)
Q.新協定はもう締結されたのですか?
A.いいえ。2026年11月4日時点では締結を検討していると報じられた段階です。11月9日の首脳会談で方針を確認する見通しで、協定文や発効日などは確定していません。
Q.通報されると自動的に強制送還されるのですか?
A.いいえ。そのような制度とは報じられていません。逮捕・拘束情報の領事通報と、刑事裁判、在留資格の取消し、退去強制などは別の制度です。
Q.日本人がベトナムで逮捕された場合も対象ですか?
A.はい。構想は両国の相互通報です。ただし、どの範囲の事案が対象になるかは今後の協議事項です。
Q.なぜすぐに始められないのですか?
A.報道では、人権に関わる制度のため、通報する事件の範囲などを詰める必要があり、発効まで少なくとも2~3年を要する可能性があるとされています。
編集部まとめ
今回の日越新協定案は、逮捕・拘束情報の扱いを本人の要請に依存する従来の仕組みから見直す構想として注目される。日本国内の犯罪対策だけでなく、ベトナムで拘束された日本人の領事保護にも関係するため、両国にとって実務上の意味がある。
一方で、11月4日時点で確認できるのは「検討開始」と「首脳会談での方針確認見通し」までである。通報対象の範囲、情報を受け取る機関、本人への告知、誤認逮捕時の訂正、発効時期を明確にしないまま、犯罪抑止の成果が確定したと評価することはできない。JP News Focusでは、11月9日の首脳会談での正式発表と、その後の協定協議を追跡したい。
出典
- 時事通信「日越、犯罪抑止へ新協定検討=9日首脳会談で確認へ」(2026年11月3日、mixiニュース配信)
- The Japan Times / Jiji「Japan and Vietnam consider new pact to prevent crimes」(2026年11月3日)
- 外務省「ラム・ベトナム共産党書記長兼国家主席との日ベトナム首脳会談及び昼食会」(2026年5月2日)
- 外務省「ラム・ベトナム共産党書記長兼国家主席夫妻の訪日」(2026年10月23日)
- 警察庁「令和7年における組織犯罪の情勢について」概要・来日外国人犯罪情勢(2026年4月)
- 警察庁「治安に関係する国際約束の締結」
- 警察庁「詐欺事件被疑者の検挙に関するベトナムとの国際共同捜査について」(2026年10月13日)
- 厚生労働省資料「領事関係に係るウィーン条約について」
- 外務省「日・中領事協定について」
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