地下水を大量に採取する企業や個人について、国籍、採取場所、用途、採取量などを全国的に把握する仕組みが検討されることになった。国土交通省と内閣官房水循環政策本部事務局が設置した有識者検討会は2026年8月4日、「地下水の適正な保全と利用のあり方について」と題する提言を公表した。
提言は、周辺の井戸や水道水源などに影響を与える可能性がある一定規模以上の地下水採取について、行政が実施主体の国籍情報、位置、用途、採取量などを把握し、支障を及ぼすおそれがある場合には是正を求められる仕組みを早急に構築すべきだとしている。
金子恭之国土交通相は同日の記者会見で、提言を踏まえ「具体的な仕組みのあり方について、法規制を含め検討してまいりたい」と表明した。産経新聞は、一定規模以上の採取を対象に、国または自治体への事前届出を義務付けることなどが想定されていると報じている。
背景には、半導体工場やデータセンターなどによる新たな水需要、気候変動による地下水涵養量の減少、災害時の代替水源確保に加え、外国人や外国資本による水源地取得への国民的な懸念がある。ただし、検討会は、外国人等による地下水採取が原因となった具体的な地下水障害や住民トラブルは、現時点で確認されていないとも明記している。
新人記者ナルカ


国交省検討会の提言概要
- 公表日:2026年8月4日
- 提言名:「地下水の適正な保全と利用のあり方について」
- 取りまとめ:地下水の適正な保全と利用に関する検討会
- 対象:周辺の地下水利用などに影響を与え得る一定規模以上の地下水採取
- 把握する情報:実施主体の企業・個人情報、国籍、採取位置、用途、採取量など
- 影響確認:揚水試験、地下水位観測、地下水シミュレーションなどを活用
- 行政対応:周辺利用へ支障を及ぼすおそれがある場合、採取者へ是正を求める仕組み
- 重点地域:地下水需給が逼迫するおそれがある地域では、より小規模な採取も把握
- 今後の方針:国と自治体の役割分担を整理し、法制度を含め具体化を検討
提言は法律ではない
今回公表されたのは有識者検討会の提言であり、全国一律の届出義務や許可制が直ちに施行されたわけではない。対象となる採取規模、行政の権限、届出・許可の方式、罰則、国と自治体の役割分担などは今後検討される。
地下水採取で何を把握するのか
| 把握項目 | 想定される内容 | 政策上の目的 |
|---|---|---|
| 実施主体 | 企業名、個人名、法人の関係情報など | 採取責任者と実質的な事業主体を明確化 |
| 国籍情報 | 個人の国籍、法人を支配する者の国籍情報などを今後検討 | 外国人・外国資本を含む採取実態の把握 |
| 採取位置 | 井戸や揚水設備の設置地点 | 周辺井戸、河川、水道水源への影響を分析 |
| 用途 | 生活用水、工業用水、農業用水、観光施設、飲料製造、消雪など | 必要量と利用目的の妥当性を確認 |
| 採取量 | 日量、月量、年間量など | 地下水利用可能量との均衡を確認 |
| 影響データ | 揚水試験、地下水位、地盤沈下、水質など | 障害を未然に防ぎ、必要に応じ是正 |
提言の中心は、国籍だけを調べることではない。誰が、どこで、何のために、どれだけ地下水を採取し、周辺の水利用へどの程度影響するかを一体的に把握する仕組みである。
行政は、一定規模以上の採取について揚水試験の結果などを確認し、周辺の井戸枯れや地下水位低下などを引き起こすおそれがある場合、採取量の抑制や設備変更などの是正を求められる制度を構築すべきだとされた。採取開始後も地下水位などの基礎データを継続して取得し、著しい変動が生じていないか監視する。
地下水規制は現在どうなっているのか
日本には、全国すべての地域と用途を対象に地下水採取を一律に規制する法律がない。
工業用水法と建築物用地下水の採取の規制に関する法律、いわゆるビル用水法があるものの、対象地域は地盤沈下が発生している一部地域に限定され、用途も工業用や建築物用などに限られている。
それ以外の地域では、自治体が独自の条例により、井戸設置の届出、許可、採取量の報告、設備基準などを定めている。しかし、規制の有無や内容は自治体ごとに異なる。
| 現行制度 | 状況 | 主な課題 |
|---|---|---|
| 国の法律 | 工業用水法、ビル用水法など | 対象地域と用途が限定的 |
| 都府県条例 | 26都府県で28条例 | 規制内容に地域差 |
| 市区町村条例 | 236市区町村で241条例 | 未制定地域では実態把握が困難 |
| 条例で規制される地域 | 714市区町村、全国の約4割 | 全国の約6割は条例による規制対象外 |
| 採取量の報告 | 規制自治体でも未義務化の例がある | 採取量を継続把握できない |
検討会によると、地下水採取を規制する条例の対象となっているのは714市区町村で、全国の市区町村の約4割にとどまる。また、条例がある自治体でも、採取量の報告を義務付けていない自治体が半数を占めるとされる。
上水道に占める地下水の割合が50%を超える自治体のうち、約6割では条例などの規制が行われていない。地域住民の生活に地下水が深く関わっていても、採取実態や水位変化を行政が十分に把握できない地域が残っている。
外国人等による地下水採取の実態
内閣官房水循環政策本部事務局が自治体へ行ったアンケートでは、12自治体から49件の「外国人等によると思われる地下水採取」の事例が報告された。
主な用途は、住宅や別荘の生活用水、リサイクル事業場での使用、積雪地域の消雪などだった。外国人や外国資本だから直ちに危険な採取をしていたという内容ではなく、通常の生活・事業利用も含まれている。
自治体への聞き取りでは、次のような事例も示された。
- 地下水を利用する飲料製造工場を建設し、海外へ輸出したいとの相談があったが、その後に地下水保全条例が制定され、計画が立ち消えになった。
- 外国資本が出資しているとみられる法人の観光施設で無届の地下水採取があり、条例の基準に適合する形で事後的に届出を行わせた。
- 外国企業から日本酒酒造会社へ、海外向けミネラルウォーター生産の打診があったが、設備投資の負担を求めると連絡が途絶えた。
一方で、提言は、外国人等による地下水採取が原因となった地下水利用への障害や住民トラブルなど、具体的な支障事例は確認されていないとしている。
問題は「被害が確認されたから規制する」という段階ではなく、条例が存在しない地域では、採取者の国籍を問わず実態を把握できず、地下水位の低下や井戸枯れが起きてからでなければ行政が対応できない点にある。
外国人による森林・水源地取得との関係
外国人による地下水採取への懸念は、外国法人などによる森林取得の増加と結び付けて語られることが多い。
林野庁の調査によると、2024年に外国法人等が取得した森林は382ヘクタールで、2006年からの累計は1万396ヘクタールだった。ただし、外国法人等が取得した森林で、取水や地下水採取を目的とした開発が行われた事例は、これまで報告されていない。
したがって、「外国人が日本の水源地を買い占め、大量の水を海外へ持ち出している」と事実として断定することはできない。
その一方、現行制度では土地を取得した後の地下水採取について、全国統一で採取量、用途、実質的な事業主体を把握する仕組みがない。実害の確認がないことと、将来の大量採取を予防する制度が不要であることは同じではない。
水資源の保全では、国籍による印象論ではなく、取得者、実質的支配者、採取量、用途、周辺への影響を行政が客観的に確認できる制度を整えることが重要となる。
地下水が国民生活に与える影響
地下水は、井戸水だけに使われる資源ではない。検討会の提言によると、日本では生活用水の約19%、工業用水の約28%、農業用水の約5%が地下水で賄われていると推計されている。
水道事業の年間取水量に占める地下水の割合は22%、簡易水道では46%に達する。ミネラルウォーター、日本酒、食品、半導体、農業、消雪、温泉、冷暖房、災害用井戸など、地域経済と防災の両面で重要性が高い。
地下水を過剰に採取すると、周辺井戸の水位低下、井戸枯れ、地盤沈下、沿岸部での塩水化などを引き起こす可能性がある。一度発生した地盤沈下や水源障害は、採取を止めても元に戻すことが難しく、回復に長い時間と費用を要する。
1994年の渇水時には、地下水採取量が急増したことで、筑後・佐賀平野などで年間10~15センチ程度の大きな地盤沈下が発生したとされる。地下水規制は、被害発生後の取り締まりよりも、事前把握と予防が重要となる分野である。
提言が示した新たな仕組み
全国一律で一定規模以上を把握
自治体条例の有無にかかわらず、周辺へ影響を与え得る一定規模以上の採取を行政が把握する。具体的な基準となる井戸口径、ポンプ能力、日量、年間量などは今後の制度設計で決められる。
需給が逼迫する地域は小規模採取も対象
地下水需要が増加し、供給余力が不足するおそれのある地域を指定し、通常の全国基準より小規模な採取についても把握する。
指定地域では、降水量、地下水涵養量、既存利用、河川や生態系への影響などを地下水シミュレーションで分析し、採取量が持続可能な範囲に収まるよう調整する。
影響があれば行政が是正を要求
揚水試験や地下水位観測により、周辺井戸、河川、水道水源などへ支障を及ぼすおそれが確認された場合、行政が採取者へ是正を求められるようにする。
是正措置として、採取量の削減、採取時間の変更、井戸の構造変更、涵養対策、設備の停止などが考えられるが、具体的な権限と手続は今後の法制度で決められる。
地下水情報をデータベース化
国や自治体が把握した地下水位、採取量、利用可能量などを共通プラットフォームでデータベース化し、地域住民の不安解消や政策判断に役立てる。
一方、事業者情報や井戸の正確な位置をどこまで公開するかについては、営業秘密、個人情報、安全保障、設備への不正侵入防止などを踏まえた整理が必要となる。
国籍情報を把握する理由
提言が国籍情報の把握を明記したのは、外国人や外国資本による土地取得への国民の不安が高まる一方、地下水採取の実態を行政が説明できる全国データが存在しないためである。
ただし、提言は外国人だけを採取禁止の対象とするものではない。一定規模以上の採取行為を、日本人、外国人、国内法人、外国資本法人を問わず把握し、その中で国籍情報も確認する仕組みである。
制度の信頼性を確保するには、法人名義だけで形式的に判断せず、出資関係や実質的な支配者をどこまで確認するかが課題となる。海外法人が日本法人を介して土地や施設を保有する場合、法人の本店所在地だけでは実態を把握できない可能性がある。
国籍情報の収集は、水源取得の実態を検証し、根拠のないうわさを排除するためにも必要となる
法規制に向けた主な課題
- 全国一律の対象となる「一定規模」の数値基準
- 届出制、許可制、登録制のどれを採用するか
- 既に稼働している井戸を対象に含めるか
- 農業用、家庭用、防災用井戸をどう扱うか
- 国、都道府県、市区町村の役割分担
- 行政区域を越えて流れる地下水の管理主体
- 採取者の国籍と法人の実質的支配者を確認する方法
- 虚偽届出、無届採取、是正命令違反への罰則
- 地下水位観測やシミュレーションに必要な費用と人材
- 採取情報の公開範囲と個人情報・営業秘密の保護
特に重要なのは、条例をすでに整備している自治体の制度と、新たな全国制度をどのように接続するかである。全国基準が自治体独自の厳しい規制を弱めることがないよう、国の制度を最低基準とし、地域事情に応じた上乗せ規制を認める仕組みが考えられる。
規制強化を支持する視点
地下水は地域住民の飲料水、農業、産業、防災を支える公共性の高い資源である。土地所有者が自由に井戸を掘り、大量採取を始めた後で周辺井戸が枯れれば、住民の生活や地域産業へ深刻な影響が及ぶ。
現在は自治体条例の有無によって規制に大きな差があり、規制のない地域へ大量採取事業が集中する可能性を排除できない。国籍を問わず、一定規模以上の採取を全国一律で事前に把握し、影響がある場合に止められる仕組みは、国土保全と国民生活を守るために必要である。
外国人や外国資本による水源地取得についても、実態を把握できなければ、政府は「問題がある」「問題がない」のどちらも根拠をもって説明できない。国籍、実質的支配者、用途、採取量を記録することは、将来の安全保障上の判断にもつながる。
慎重な制度設計を求める視点
地下水は農業、小規模事業、地域の食品産業、災害用井戸など幅広く利用されている。届出や許可の対象を広げすぎれば、地域の事業者や農家へ過大な事務負担と費用を課す可能性がある。
また、外国人等による採取で具体的な支障事例が確認されていない段階で、国籍を過度に強調すれば、適法に事業を行う外国人や外国資本への不合理な疑念を招くおそれもある。
制度は国籍だけで規制の可否を決めるのではなく、採取規模、地域の地下水収支、周辺への影響を科学的に評価する必要がある。国籍情報は実態把握と政策検証のために収集し、法的措置は客観的なリスクに基づいて行うことが望ましい。
国土と水資源を守るために必要な視点
外国人による水源地取得を巡っては、確認されていない情報がSNSなどで拡散しやすい。政府が十分なデータを持たない状態は、不安を否定することも、危険を早期に発見することも難しくする。
今回の提言の意義は、外国人を一律に排除することではなく、日本の地下水を誰がどのように利用しているかを全国共通の基準で可視化し、過剰採取を未然に防ぐ方向を示した点にある。
日本人企業であっても地域の水源を枯渇させる採取は認めるべきではなく、外国資本であっても科学的な採取可能量を守り、地域へ利益を還元する適正な利用であれば、同じルールで判断されるべきである。
一方、水は国民生活と国家基盤に直結する資源である。外国政府やその影響下にある主体による土地・施設取得が安全保障上の懸念を生じさせる場合に備え、採取行為だけでなく、実質的支配者、用途変更、輸出、周辺重要施設との位置関係を確認できる制度も検討する必要がある。
クロ助とナルカの視点
























編集部まとめ
- 提言の要点:国交省の有識者検討会は、一定規模以上の地下水採取について、実施主体の国籍、位置、用途、採取量などを全国的に把握する仕組みを提言した。
- 行政の権限:揚水試験や地下水位観測を通じ、周辺利用へ支障を及ぼすおそれがある場合には、採取者へ是正を求められる制度を構築すべきだとした。
- 現行制度の課題:地下水条例の対象は全国714市区町村、約4割にとどまり、条例がない地域では採取実態を十分に把握できない。
- 外国人関連の事実:12自治体から49件の採取事例が報告されたが、外国人等による採取が原因となった具体的な地下水障害や住民トラブルは確認されていない。
- 森林取得との関係:2024年に外国法人等が取得した森林は382ヘクタール、2006年以降の累計は1万396ヘクタール。ただし、取水や地下水採取を目的とした開発事例は報告されていない。
- 今後の焦点:対象規模、届出・許可方式、実質的支配者の把握、是正権限、罰則、情報公開、国と自治体の役割分担を法制度として具体化できるかが問われる。
- 国益的示唆:水源の保全には、国籍による印象論ではなく、採取主体、国籍、用途、量、周辺への影響を客観的に把握し、国籍を問わず過剰採取を防ぐ全国共通ルールが必要である。
出典
- 産経新聞「地下水採取の実態把握の仕組み作りへ 国交省検討会が提言 外国人の水源取得懸念」2026年8月4日
- 国土交通省「『地下水の適正な保全と利用に関する検討会』提言がとりまとめられました」2026年8月4日
- 国土交通省「地下水の適正な保全と利用に関する検討会 提言の概要」
- 地下水の適正な保全と利用に関する検討会「地下水の適正な保全と利用のあり方について 提言」2026年8月
- 国土交通省「金子大臣会見要旨」2026年8月4日
- 国土交通省「第1回 地下水の適正な保全と利用に関する検討会を開催します」2026年3月3日













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