観光庁、国土交通省、厚生労働省は2026年7月15日、地方公共団体に対し、「住宅宿泊事業法に規定する届出住宅に係るゼロ日規制等について(技術的助言)」を通知した。
今回の通知により、自治体は、閑静な住宅街や学校周辺の生活・教育環境、定住人口、地域コミュニティの維持などに支障が生じるおそれがある場合、条例によって住宅宿泊事業、いわゆる民泊の新規営業を特定区域で禁止したり、営業可能日を限定したりできることが明確化された。
さらに、すでに多数の民泊が立地し、静穏な居住環境が著しく損なわれているなどの強い必要性があり、他に適切な対応策がない場合には、一定の猶予期間を設けたうえで、既存民泊の営業を禁止または制限することも考えられるとされた。
これまで2017年12月に策定された国のガイドラインでは、民泊の営業可能日を実質的にゼロとする「ゼロ日規制」は適切ではないとされてきた。今回の技術的助言は、この従来方針を見直し、地域の実情に応じた立地規制を自治体が選択できることを明確にした点で大きな転換となる。
ただし、今回の通知だけで全国の民泊が直ちに禁止されるわけではない。実際に規制を導入するには、それぞれの自治体が地域の被害状況や規制の必要性を検討し、合理的な範囲で条例を制定する必要がある。
新人記者ナルカ


今回の通知の要点
- 通知日:2026年7月15日
- 発出機関:観光庁、国土交通省、厚生労働省
- 法的性格:地方自治法に基づく技術的助言
- 主な内容:民泊の立地規制、既存民泊への制限、ICT管理の義務付け
- 規制方法:自治体が条例を制定して実施
- 対象となり得る区域:住宅地、学校周辺、地域コミュニティ維持に支障が生じる区域など
- 規制例:新規営業禁止、営業日制限、既存民泊の禁止・制限
- 管理規制例:騒音計、出入口カメラ、データ保存の義務付け
「ゼロ日規制」とは何か
住宅宿泊事業法に基づく民泊は、原則として年間180日以内の営業が認められている。
「ゼロ日規制」とは、条例により営業可能日を実質的にゼロにする、または新たな住宅宿泊事業の届出を認めないことで、特定区域で民泊営業を禁止する規制を指す。
これまで国のガイドラインでは、条例で一律にゼロ日とすることは適切ではないとの考え方が示されていた。今回の通知では、民泊の増加や地域トラブルの実態を踏まえ、合理的に必要と認められる範囲であれば、自治体の判断によってゼロ日規制を行うことが可能と整理された。
新規民泊を禁止できるケース
住宅街や学校周辺の環境を守る場合
閑静な住宅街や教育施設の周辺で、多数の宿泊者が頻繁に往来することにより、住宅地の静穏な居住環境や学校などの教育環境が損なわれるおそれがある場合、新規民泊を禁止したり、営業可能日を土日祝日の前日などに限定したりできる。
- 深夜や早朝の騒音
- 大人数の宿泊者による路上滞留
- 指定日や分別ルールを守らないごみ出し
- スーツケースを引く音や車両の出入り
- 学校の通学路への観光客の集中
- 住民以外の出入りが増えることへの防犯上の不安
定住人口や地域コミュニティを守る場合
住宅の多くが民泊へ転用されることにより、定住人口が減少し、町内会、防災活動、地域行事、子どもの見守りなど、地域コミュニティの維持が難しくなるおそれがある場合も、新規民泊を禁止できる。
既存民泊も禁止できる場合
今回の通知では、すでに営業している民泊にも規制を及ぼせる可能性が示された。
- すでに区域内へ多数の民泊が立地している
- 静穏な居住環境が著しく損なわれるなど、現に弊害が生じている
- 規制を行う強い必要性がある
- 他に適切な対応策が存在しない
- 一定の猶予期間を設ける
この場合、既存民泊の営業を全面的に禁止したり、営業可能日を限定したりする条例が考えられる。ただし、既存事業者はすでに設備投資や契約を行っているため、営業の自由や財産権との調整が必要となる。
事業者変更時に営業継続できない場合も
新たな住宅宿泊事業の実施が禁止された区域で、届出者が変更された場合は、新たな届出が必要となる。そのため、同じ住宅であっても、事業者を変更して営業を継続できない可能性がある。
ICT管理の義務付けも可能に
自治体は、地域の実情や施設の利用状況に応じ、条例によって次のような管理を義務付けることができる。
- 騒音計の設置
- 出入口へのカメラ設置
- 宿泊者の出入り状況のモニタリング
- 騒音や映像などのデータ保存
- 過去1年間分など一定期間の管理データ保存
- 自治体による保存データの確認
一方、出入口カメラやデータ保存には、宿泊者や周辺住民のプライバシー保護も必要である。撮影範囲、保存期間、利用目的、アクセス権限などを条例や運用基準で明確にしなければならない。
営業時間や定員も条例で制限可能
- チェックイン時間の制限
- チェックアウト時間の制限
- 施設ごとの定員上限
- 営業可能曜日の制限
- ICTを用いた管理体制の整備
条例には合理性と他制度との整合が必要
自治体が自由に無制限の規制を導入できるわけではない。通知は、規制を合理的な範囲で行うとともに、都市計画や旅館業法上の規制との整合に留意するよう求めている。
- 民泊による被害や苦情の客観的データ
- 規制対象区域を設定する合理的理由
- 新規民泊と既存民泊を区別する必要性
- 簡易宿所、ホテル、旅館との規制の整合
- 都市計画や特別用途地区との関係
- 事業者への猶予期間
- より緩やかな対策で問題を解決できないか
- 住民、事業者、観光関係者への意見聴取
民泊利用者の約54%が外国人との党説明
自由民主党の発信では、2024年度の民泊利用者の内訳について、約54%が外国人だったとしている。
ただし、今回確認した観光庁の2026年7月15日付通知本文には、この「約54%」という数値は記載されていない。そのため、記事では「自民党の説明による数値」として扱う。
訪日外国人旅行者の増加により、民泊が宿泊需要の受け皿となってきた一方、民泊による迷惑行為を外国人だけの問題として扱うことは適切ではない。騒音、ごみ出し、定員超過、無許可営業などの問題は、宿泊者の国籍だけでなく、事業者の管理体制、予約サイトの運用、地域ルールの周知不足、行政の監督などが複合して発生する。
自民党は「提言の実現」と説明
自由民主党外国人政策本部は、2026年1月に政府へ申し入れた提言で、民泊を含む制度の不適切利用への対応や、地域の実情に応じた規制を自治体が行いやすい環境整備を求めていた。
党側は今回の通知について、「わが党の提言によって、地域の声に寄り添った民泊規制への対応が実現した」と説明している。
一方、政府の公式通知は、民泊施設数の増加、住宅地の静穏な環境、定住人口、地域コミュニティ維持への懸念などを背景としている。「自民党の提言だけによって通知が出された」と政府が公式に説明したわけではない。
民泊が地域にもたらす利益
- ホテル不足地域での宿泊受け入れ
- 空き家や空き部屋の活用
- 宿泊者による飲食・買い物・交通消費
- 地方や住宅地への観光消費の分散
- 所有者の家賃・宿泊収入
- 長期滞在や家族旅行への対応
住民側が求める生活環境の保護
民泊の周辺住民からは、旅行者が短期間で入れ替わるため、誰が滞在しているのか分からない、管理者へ連絡してもすぐに対応しない、ごみが長期間放置されるなどの不安が指摘されてきた。
今回の通知は、自治体が住民の生活環境を守るため、営業禁止だけでなく、ICT管理、定員、チェックイン時間など複数の規制手段を選べるようにした点に意味がある。
事業者側への影響
民泊事業者にとっては、条例変更によって営業できる日数が減少したり、新規参入が不可能になったりする可能性がある。既存民泊まで禁止されれば、物件取得費、改装費、家具・設備費などを回収できなくなる事業者も出る。
自治体には、条例制定前に規制案を公表し、事業者への説明、経過措置、相談窓口などを整備することが求められる。
違法民泊との違い
今回のゼロ日規制は、住宅宿泊事業法に基づいて正式に届出を行う「届出住宅」が主な対象である。届出や旅館業法上の許可を得ずに宿泊営業を行う違法民泊は、現行法上も認められていない。
条例で合法民泊を規制しても、違法民泊の監視や摘発が不十分であれば、適法に届出をした事業者だけが営業できなくなり、無届業者が残るおそれがある。
今後、自治体で想定される動き
- 民泊件数、苦情件数、住宅転用状況の調査
- 規制候補区域の設定
- 住民、事業者、観光関係者への意見聴取
- 条例案の作成
- 議会での審議・議決
- 周知期間と猶予期間の設定
- 届出受付や監視体制の整備
- 条例施行
賛成・反対・中立の視点
ゼロ日規制を支持する視点
住民が日常生活を送る住宅街や学校周辺で、観光客の往来、騒音、ごみ問題が続いている場合、地域の生活環境を優先すべきだという立場である。
過度な規制を懸念する視点
民泊は宿泊不足の解消、空き家活用、地域経済への消費を支えている。明確なデータや被害実態を示さず、一律禁止へ進めば、適法な事業者の営業や観光産業を過度に制約するおそれがある。
段階的な規制を求める中立的視点
まずICT管理、定員、チェックイン時間、管理者の駆け付け時間などを強化し、それでも問題が解消しない区域に限り新規禁止や既存規制を検討すべきだという考え方である。
クロ助とナルカの視点


















編集部まとめ
- 観光庁などは2026年7月15日、自治体が条例によって民泊のゼロ日規制を行えることを明確化した。
- 住宅街や学校周辺では、新規民泊の禁止や営業日制限が可能となる。
- 重大な弊害があり、他の適切な対策がない場合、既存民泊も猶予期間を設けて禁止・制限できる可能性がある。
- 騒音計、出入口カメラ、データ保存などのICT管理を条例で義務付けることも可能。
- 通知だけで全国の民泊が自動的に禁止されるわけではなく、自治体の条例制定が必要。
- 自民党は1月の提言が実現したと説明するが、政府通知は地域環境や自治体の課題を背景としている。
出典
- 観光庁「地方公共団体に対して民泊に関する通知を行いました」2026年7月15日
- 観光庁・国土交通省・厚生労働省「住宅宿泊事業法に規定する届出住宅に係るゼロ日規制等について(技術的助言)」
- 観光庁「民泊制度ポータルサイト」
- 自由民主党「外国人政策本部 提言」2026年1月21日
- 自由民主党「外国人政策本部が政府へ提言を申し入れ」2026年1月22日













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