国際協力機構(JICA)は、アフリカ諸国との交流強化を目的に掲げた「アフリカ・ホームタウン」事業について、撤回する方針を固めました。本来は自治体とアフリカをつなぐ交流策でしたが、SNS上で「移民受け入れ促進」との誤解が広がり、全国で抗議デモが発生。JICAと外務省は誤解を否定しましたが、事業の継続は困難となり、名称変更などを含む再構築を検討しています。
発表からわずか1か月で撤回方針に追い込まれた背景には、国際交流と移民政策が混同される世論環境や、SNSによる情報拡散の速さがあります。今回の騒動は、日本の外交・国際協力における「説明責任」の重要性を改めて突きつけています。










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事業の概要と発表の経緯
「アフリカ・ホームタウン」事業は、2025年8月に横浜市で開催された第9回アフリカ開発会議(TICAD9)で発表されました。今治市(愛媛県)とモザンビーク共和国をはじめ、日本の複数の都市とアフリカ諸国を「ホームタウン」として認定し、国際交流や人材交流、イベント支援などを通じて相互理解を深める狙いがありました。事業の趣旨については外務省が公式発表資料で「移民受け入れや特別な査証発給は想定していない」と強調しています(出典:外務省 TICAD9発表 2025年8月25日)。
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SNSでの誤解と抗議デモの広がり
ところが、SNS上では「アフリカからの大規模移民を受け入れる制度」「特別なビザを発給する」という誤情報が拡散し、全国各地で抗議活動が相次ぎました。大手メディアの一部も「移民促進策」と受け止められる見出しを掲載したことで、誤解が加速。今治市など認定された自治体には抗議電話やメールが殺到し、街頭でも「JICA解体を求める」「白紙撤回せよ」といったプラカードが掲げられる事態となりました(参考:朝日新聞 2025年9月23日)。
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JICAと外務省の対応
JICAは「移民政策との誤解は事実無根」として、報道各社に訂正を求めるとともに公式サイト上で注意喚起を行いました(出典:JICA公式:報道に関する注意喚起 2025年8月25日)。外務省も同日、「この事業は国際交流の枠組みであり、移民受け入れや特別査証の発給を行うものではない」との見解を発表し、誤情報を否定しています(出典:外務省 報道発表 2025年8月25日)。
しかし、SNSでの「勝利宣言」のような拡散や、抗議活動がさらに過熱することを懸念する声も政府内にあり、事業そのものを撤回し名称を改めて再構築する方針が固まったと報じられています。
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自治体側の対応
「ホームタウン」に認定された愛媛県今治市は、公式サイトで「本事業は交流促進であり、移民政策ではない」と明言し、誤解を正す立場を表明しました(出典:今治市公式コメント)。
課題と論点整理
今回の混乱は、政策の趣旨説明と国民への情報発信の不足が浮き彫りになった事例です。もともと国際交流を目的とした取り組みが、移民政策と結びつけられて拡散した背景には、過去の外国人受け入れ政策への不信感や地域社会での摩擦も影響しています。
また、SNS時代においては誤情報が一気に拡大するリスクが高まっており、政府や関連機関には迅速かつ透明性の高い情報提供が不可欠です。今回のように「説明不足」や「誤解を前提とした議論」が先行すると、政策の正しい理解が阻害され、結果的に事業そのものが頓挫する恐れがあります。
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編集デスクまとめ
JICA「アフリカ・ホームタウン」事業の撤回方針は、国際交流政策が国内世論の影響を強く受けることを示しました。本来の趣旨と異なる形で反発が拡大した背景には、政府と国民との間の説明不足と不信感が横たわっています。今後、再構築される枠組みでは「交流促進」の目的を明確にし、誤解を招かない情報発信が不可欠です。外交政策の現場でも、国内の理解と合意形成が欠かせないことを改めて突きつけた事例といえるでしょう。
一次情報リンク:
– 外務省:TICAD9関連発表(2025年8月25日)
– 外務省:誤情報否定に関する発表(2025年8月25日)
– JICA:報道に関する注意喚起(2025年8月25日)
– 今治市:公式見解
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