公開日:2025年9月14日/最終更新日:2025年9月14日
日本各地で外国人労働者や留学生の受け入れが広がっています。バングラデシュやインドをはじめ、JICAを通じたアジア諸国との協定、千葉県のナイジェリア人材、東京都のエジプトとの交流事業など、多様な動きが同時進行しています。これらは労働力不足や国際協力を背景に進められていますが、制度設計や住民説明が追いつかず、地域ごとに期待と不安が交錯しています。本記事では、各地の受け入れ事例をまとめ、国益や日本社会にとっての意味を整理します。










背景
日本は少子高齢化で人口減少が進み、労働力不足が恒常化しています。そのため、外国人労働者・留学生の受け入れは一時的な対症療法ではなく、国の持続性に直結する政策課題になりました。政府や自治体は、技能実習・特定技能・留学生に加え、MOU(覚書)や都市間連携を通じて受け入れルートを多層化しています。
各地域の受け入れ事例
愛媛県今治市 ― モザンビークとのホームタウン
愛媛県今治市はモザンビークとのホームタウン認定を受けました。海事産業や脱炭素分野での連携を目的としており、今治市は「移民受け入れ制度ではなく、国際交流や地域創生型の枠組み」と明言しています。SNSでは戸惑いや不安も見られますが、市長は産業交流の可能性を強調しました。
参考:今治市公式 ホームタウン認定に関する見解 2025年 / PR TIMES 今治市とモザンビーク ホームタウン認定 2025年
内部リンク:今治市など4自治体がアフリカホームタウン認定 交流の狙いと誤解リスク
新潟県三条市 ― ガーナとのホームタウン
新潟県三条市はガーナとのホームタウンに認定されました。当初、ガーナ政府団の視察が予定されていましたが、SNS上で「移民受け入れにつながるのでは」との誤解が拡散し、視察は中止となりました。市は公式サイトで「移民政策ではない」と改めて説明しています。
参考:三条市公式 ホームタウン認定に関する報道 2025年 / 朝日新聞 ガーナ政府団視察中止 新潟県三条市 2025年9月
詳しくは ガーナ視察が急きょ中止 新潟・三条市ホームタウン事業の課題 の記事で解説。
詳しくは 三条市・JICA・慶應SFC協定 人材育成と地域活性化の狙い の記事で解説。
山形県長井市 ― タンザニアとのホームタウン
山形県長井市は2025年、タンザニアとの「JICAアフリカ・ホームタウン」に認定されました。地域活性化や人材交流を目的としていますが、誤訳や誤情報により「移民受け入れ」といった誤解がSNSで拡散され、市が訂正を公表する事態となりました。
参考:長井市公式 国際交流に関する報道 2025年 / 朝日新聞 誤報訂正にも抗議続く ホームタウン認定 2025年8月
千葉県―ナイジェリア人材受け入れ
千葉県では、自動車関連や製造業の人手不足を背景に、ナイジェリア政府と協力して人材受け入れを進めています。特定技能や技能実習制度を通じ、アジア中心だった受け入れ対象がアフリカへと広がる動きとして注目されました。SNSでは「なぜナイジェリアなのか」という戸惑いの声と、国際的な人材確保を評価する意見が交錯しています。
参考:JICA アフリカ・ホームタウン認定状交付に係る木更津市の見解 発表2025年9月12日更新
詳しくは 木更津市とナイジェリア ホームタウン認定を巡る温度差 の記事で解説。
東京都―エジプトとの「TOKYO CORRECT」構想
東京都はエジプトをパートナー国に選び、「TOKYO CORRECT」事業を発表しました。文化・人材交流を推進する取り組みとされていますが、スローガンの「CORRECT(正しい)」が「COLLECT(集める)」と揶揄され、SNSで「移民を集めるのではないか」と話題になりました。都は「移民ではない」と説明していますが、事実上の長期滞在増につながる可能性が指摘されています。
参考:Yahooニュース 「移民ではない」東京都が「#TOKYO_CORRECT」使い発信 発表 2025年
詳しくは 東京都「移民ではない」と強調 エジプト合意書巡り#TOKYO_CORRECT発信 の記事で解説。
バングラデシュ人材の受け入れ
バングラデシュからの人材受け入れは、介護や建設分野を中心に広がっています。労働力不足を補う即効策とされ、特定技能や技能実習を通じて今後も増加が予想されます。ただし、送り出し機関の質や生活支援の体制などが課題として挙がっています。
国レベルで整備された制度であり、受け入れ先は全国の企業や施設に広がっています。
参考:法務省 入管庁 バングラデシュに関する情報 2025年
詳しくは 日本、バングラデシュ人材を5年で10万人受け入れ 制度と社会的影響を検証 の記事で解説。
インド人材の受け入れ
ITや高度人材分野で注目されているのがインドからの受け入れです。在留インド人は近年増加傾向にあり、教育分野や都市生活の中でも存在感を増しています。国際競争力を高める観点では有益ですが、受け入れた後の地域での生活支援が追いついていない面もあります。
受け入れ先は全国の介護施設や建設現場など、企業・自治体の採用動向に応じて広がる見込みであり、特定の市や県に限定されるものではありません。
参考:経済産業省 日印特定技能MOU 2025年
詳しくは 首脳会談で日印人材交流を拡大 インド人 50万人 受け入れと新計画合意へ 国民生活への影響も の記事で解説。
JICAとアジア各国とのMOU
JICAはフィリピン、ベトナム、東ティモールなどと職業訓練や日本語教育でMOUを締結しています。表向きは「国際協力」ですが、実際には日本での労働力確保に直結する仕組みとして機能しています。教育や研修を通じて技能を持つ人材を呼び込む点が特徴です。
参考:JICA プレスリリース 2024〜2025年
詳しくは JICAと技能実習・特定技能制度 役割と日本社会への影響を解説 の記事で解説。
ホームタウン構想(アフリカ諸国)
アフリカ諸国と日本の自治体をつなぐ「ホームタウン」構想は、文化交流の名目で進められています。しかし、住民からは「実質的な移民受け入れではないか」との不安が広がり、SNSでは賛否が二分しています。国際協力と地域社会の摩擦の狭間にある取り組みといえます。
主要MOUの動き(2025年)
地域ごとの取り組みに加え、今年は国や国際機関レベルで複数のMOU(覚書)が結ばれました。外国人労働者の送り出しや権利保護、将来的な人材交流を見据えた動きが目立ちます。
主体 | 相手国・機関 | 分野 | 内容 | 課題 |
---|---|---|---|---|
日本政府 | インド | 特定技能(介護・建設など) | 特定技能外国人材の送り出しで合意。教育訓練や日本語学習を含む。 | IT人材との並走、受け入れ体制の整備不足 |
三重県 | インドネシア | 介護・看護・製造 | 県とインドネシア政府が人材確保強化のためMOU締結。技能実習から特定技能への移行促進。 | 地方での定着支援、生活インフラ不足 |
IOM × JP-MIRAI | 国際機関 | 労働者権利保護 | 公正なリクルート、外国人労働者の権利保障を推進する覚書。 | 実効性担保、国内制度との接続 |
JICA(TICAD9連動) | アフリカ諸国 | 職業訓練・人材交流 | TICAD9に合わせ多数のMOU締結。職業訓練や技能移転を通じ将来的な労働受け入れを視野。 | アフリカからの人材定着モデル未確立 |
アフリカとの人材交流については、2025年8月のTICAD9に合わせて多数のMOUが結ばれました(ジェトロ 2025年)。職業訓練や技能移転を通じ、将来的な労働受け入れを視野に入れた取り組みが進んでいます。
これらのMOUは「制度の将来像」を方向づける要素でもあり、統計上の受け入れ数に反映される前段階の布石といえます。
現状データ
指標 | 値(概数) | 注記 |
---|---|---|
在留外国人総数 | 約340万人 | 過去最多を更新(法務省 2024年) |
技能実習 | 約35万人 | 製造・介護・農業など |
特定技能 | 約20万人 | 14分野。建設・外食等 |
留学生 | 約28万人 | 専門・大学・日本語学校 |
増加傾向の国 | インド/バングラデシュ等 | ベトナム・中国・フィリピン・ネパールも上位 |
※上記は最新公表値をもとにした概数スナップショットです。正式な数値は各年の「法務省 在留外国人統計」をご参照ください。
地域・生活への影響(要点)
地方:工場や介護現場では外国人労働者が不可欠になりつつあります。(厚生労働省 外国人介護人材の受け入れについて 2024年)。
都市部:教育・医療・住まいなどインフラ逼迫リスクが指摘され、多文化環境の整備が急務とされています(総務省 在留外国人に関する基礎調査 2024年)。
SNS動向:歓迎よりも「不安」「なぜこの国を?」といった戸惑い系投稿の比率が高い傾向があります(出典:朝日新聞 「アフリカの「ホームタウン」認定で「事実と異なる情報」 各市が声明」 2025年8月)。
「ホームタウン」名称変更の検討
「ホームタウン」という呼称について、自治体から「移住や移民と誤解されやすい」との指摘が出ています。木更津市はJICAに対し名称変更を要望しており、JICA側も検討する姿勢を示しました。背景には、SNSを中心に「特別なビザが発給される」「大量移住につながる」といった誤情報が拡散し、市民から不安の声が寄せられた経緯があります。
一方で、名称が変更されたとしても、事業の本質はあくまで「交流・研修・視察」を目的とした国際協力であり、在留資格や受け入れ制度そのものが変わるわけではないと説明されています。つまり、誤解や不安を払拭するための呼称調整が主眼であり、制度の根幹には影響しません。(時事ドットコム)
参考:木更津市「ホームタウン事業に対する本市の立場」 2025年
まとめ/今後の見通し
受け入れは「アジア依存」から「アフリカ・中東」へ裾野が広がり、地方の人手不足対策から首都の国際都市戦略まで用途が多様化しました。拡大自体を否定しないにしても、上限の可視化、地域別影響の評価、生活支援の制度化、そして住民への説明責任が不可欠です。制度の透明性を高め、国益と共生の両立を図ることが、日本社会の安定につながります。
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